先使用による商標の使用をする権利とは、「他人の商標登録出願前から不正競争の目的ではなくその出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標を使用していて、その商標が周知商標になっている場合は、その後継続して使用する限りはその企業努力によって蓄積された信用を既得権として保護しようとするもの」(工業所有権法〔産業財産権法〕逐条解説〔第19版〕)です。
商標法第32条の趣旨は、過誤登録の場合の救済規定です。第32条の要件に当てはまるような者がいた場合は、当該商標登録出願は、商標法第4条第1項第10号で拒絶されるはずなのですが、過誤登録されてしまった場合は、無効審判を請求したりしなくても、商標の使用を認めようとするものです。商標法第4条第1項第10号の無効理由は除籍期間の対象となっているので、特に無効審判の除籍期間の経過後に、本条の存在がきいてきます。
「広く認識された」とするのは、相当程度周知でなければ、保護に値する財産的価値がないと考えられるからです。
また、当該商標の使用の継続が要件とされているのは、長期間使用しなければ、保護すべき信用が減少すると考えられるからです。
第32条1項の権利は、その業務とともにする場合を除いて移転することができないことになっています。
第32条2項では、当該登録商標の商標権者又は専用使用権者は、第32条1項の権利者に対して混同防止表示請求ができる旨が規定されています。第32条第1項の権利は、商標権者の意思によらずに発生する権利で、発生後に商標権者の力が及ぶものではないので、このような規定が設けられています。