湯ーとぴあ事件(控訴審) 知財高裁平成27年11月5日判決

被控訴人(原告)は、役務「入浴施設の提供」について「ラドン健康パレス\§湯~とぴあ」の商標権を持っており、「§湯~トピアかんなみ\IZU KANNAMI SPA」の標章を使用する控訴人(被告)に対し、差止請求及び損害賠償請求を行い、原審では、被控訴人の請求のうち、標章の使用差止や、損害賠償のうち1234万9069円及び内金1088万1892円に対する平成25年5月25日から、内金146万7177円に対する平成26年11月1日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却しました。控訴人はこれを不服として控訴しました。尚、控訴人(被告)は「§湯~トピアかんなみ\IZU KANNAMI SPA」について、「飲食物の提供、温泉施設の提供」を指定役務とする商標権を持っています。

控訴審の争点は、原告商標と被告標章の類否についてです。
知財高裁は、「原告商標の外観は、『ラドン健康パレス』の文字及び『湯~とぴあ』の文字を上下二段にそれぞれ横書きして成り、上段の『ラドン健康パレス』の文字は、細いゴシック調で色は青色であり、下段の『湯~とぴあ』の文字は、丸みを帯びた太いフォントのポップ体で、やや立体感を持たせた黄色の文字を青地でふち取って表されており、上段の文字の約7、8倍大きく、また、『湯~とぴあ』の『湯』の文字が『とぴあ』の文字よりも大きく強調されている。原告商標は、上記の上下二段の文字から、全体として、『ラドンケンコウパレス ユートピア』との称呼を生じる。そして、上段の『ラドン健康パレス』の部分は、元素の一つである『ラドン』、身体に悪いところがなくすこやかなことを意味する『健康』及び『宮殿、御殿。娯楽又は公益のための建築物』の意味を持つ『パレス』という一般的な単語を繋げたものであり...それらの単語が持つ個々の意味合いを併せた『ラドンを用いた健康によい温泉施設』という程度の一般名称的な観念が生じるものということができる。また、原告商標の下段の『湯~とぴあ』の部分は、『理想郷、理想社会』などを意味する英単語『utopia』(ユートピア)の『ユ』を『湯』に置き換えた造語であって、『理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じるということができる。そうすると、この上段部分と下段部分の意味上のつながりから、原告商標を全体として見ると、『ラドンを用いた健康によい温泉施設であって、理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じるということができる。...原告商標は、その外観上、上段の『ラドン健康パレス』の部分と下段の『湯~とぴあ』の部分とから成る結合商標と認められるところ、その文字の色及び大きさの違い、その配置態様によって、一見して明瞭に区分して認識されるものであるから、これらの二つの部分は、分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできない。そして、下段の『湯~とぴあ』の部分は、前記アのとおり、「ユートピア」の「ユ」を「湯」に置き換えた造語であり、しかも、その文字が上段の文字よりもはるかに大きく目立つ色彩、態様で示されている。しかしながら...認定事実によれば、『ゆうとぴあ』(「ユートピア」)と称呼される語は、『湯』の漢字を含む場合であると、『湯』の漢字を含まない場合であると、いずれの場合であっても、入浴施設の提供という役務においては、全国的に広く使用されているということができる。したがって、原告商標のうち、下段の『湯~とぴあ』の部分は、入浴施設の提供という指定役務との関係では、自他役務の識別力が弱いというべきであるから、取引者又は需要者をして役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず、この『湯~とぴあ』の部分だけを抽出して、被告標章と比較して類否を判断することは相当ではない。...原告商標の上段部分の『ラドン健康パレス』及び下段部分の『湯~とぴあ』の各部分は、指定役務との関係では、いずれも出所識別力が弱いものであって、両者が結合することによってはじめて、『ラドンを用いた健康によい温泉施設であって、理想的で快適な入浴施設』であることが明確になるものであるから、原告商標における『ラドン健康パレス』と『湯~とぴあ』は不可分一体として理解されるべきものである。したがって、原告商標については、上段部分の『ラドン健康パレス』と下段部分の『湯~とぴあ』の部分を分離観察せずに、全体として一体的に観察して、被告標章との類否を判断するのが相当である。被告標章の外観は、上段に『湯~トピアかんなみ』の文字を横書きし、下段に、3枚の葉を伴う1輪の花の図形と、その図形の左右にそれぞれ『IZU KANNAMI』と『SPA』の極めて小さな欧文字を横書きに配して成る。上段の文字は、いずれも毛筆様のもので書いたように濃淡や太さに変化を持たせたデザインの字体(なお、『湯』の字の中の『日』の部分は、その中央の『-』が赤い丸に置き換えられて表現されている。)となっているが、このうち『湯~トピア』の部分は黒色(上記赤い丸を除く。以下同じ。)で、『かんなみ』の部分は緑色でそれぞれ表されており、『湯~トピア』の『湯』の文字が『~トピア』の文字よりも大きく強調されており、また、下段の花の図形は、上段の一文字と同程度かそれより小さく描かれ、下段の欧文字は、上段の文字に比して極めて小さいフォントで、黒色で記されている。...被告標章の上段部分のうち、『湯~トピア』及び『かんなみ』の各部分は、同様の字体で、1行でまとまりよく記載されている上に、いずれも出所識別力が弱いものであって、両者が結合することによってはじめて、『函南町にある、理想的で快適な入浴施設』であることが明確になるものであるから、被告標章における『湯~トピア』と『かんなみ』は不可分一体として理解されるべきものである。...原告商標と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分である『湯~トピアかんなみ』とを対比すると、原告商標からは、『ラドンケンコウパレスユートピア』の称呼及び『ラドンを用いた健康によい温泉施設であって、理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じ、被告標章の『湯~トピアかんなみ』の部分からは、『ユートピアカンナミ』の称呼及び『函南町にある、理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じることが認められるから、原告商標と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分とは、称呼及び観念を異にするものであり、また、外観においても著しく異なるものであることが明らかである。」として両商標は類似しないから、被告標章の使用は商標権の侵害にあたらないとの判断をしました。

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