本事件は、「小僧」の登録商標を有するX(原告・控訴人・上告人)が、著名な持帰り寿司のチェーンである「小僧寿し」チェーン(以下、Aとします。)の加盟店であるY(被告・被控訴人・被上告人)の使用商標が登録商標に類似するとして差止請求、損害賠償請求をした事案です。
本判決のポイントは大きく2つあります。
1. フランチャイズチェーンの名称と商標法26条1項1号にいう自己の名称
2. 商標法38条3項に基づく損害賠償請求に対する損害不発生の抗弁の可否
1についてはYがYの商標の使用は商標法26条1項1号に規定する「自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するため商標権の効力は及ばないと反論したため最高裁が判断を示したものになります。本判決では、「フランチャイズ契約により結合した企業グループは共通の目的の下に一体として経済活動を行うものであるから、右のような企業グループに属することの表示は、主体の同一性を認識させる機能を有するものというべきである。したがって、右企業グループの名称もまた、商標法二六条一項一号にいう自己の名称に該当するものと解するのが相当である。」と判事しました。第1審と第2審ではフランチャイズの名称は著名なものである場合に限って、「自己の名称」に該当するとの判断を示していますが、最高裁判決では著名であることは必要としていません。
2については、「商標法三八条二項は、商標権者は、故意又は過失により自己の商標権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる旨を規定する。右規定によれば、商標権者は、損害の発生について主張立証する必要はなく、権利侵害の事実と通常受けるべき金銭の額を主張立証すれば足りるものであるが、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができるものと解するのが相当である。」として損害不発生の抗弁を認めました。