原告は、第41、45類の「納棺、納棺に関する相談、遺体への死化粧の施術、身の上相談、祭壇の貸与、墓地又は納骨堂の提供、墓地又は納骨堂に関する相談、納骨堂の管理、遺体の入浴・洗浄」等を指定役務とする、商標「納棺士」(標準文字)について商標登録出願を行いましたが、商標法3条1項3号に該当するといて拒絶査定を受けました。原告はこれを不服として、拒絶査定不服審判を請求しました(不服2014-20782号)が、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を起こしました。
知財高裁は、「本願商標は、『納棺士』の漢字3文字を標準文字で表してなるものであり、本願商標から『ノウカンシ』の称呼が生じる。広辞苑第六版(平成20年1月11日発行。乙1及び2)によれば、本願商標を構成する『納棺』の語は、『死体を棺に納めること。』を意味し、『士』の語は、『兵卒の指揮をつかさどる人。また、軍人。兵。』、『近世封建社会の身分の一つ。もののふ。さむらい。』、『学徳を修めたりっぱな男子。また、男子の敬称。』、『一定の資格・役割をもった者。』などを意味することが認められる。して、『士』の語が『一定の資格・役割をもった者。』という意味で用いられる場合には、『弁護士、弁理士、税理士、栄養士、消防士、航海士、機関士』などのように、その業務や役割などを表す語に続けて付されるのが通常であることからすると、『納棺』、すなわち『死体を棺に納めること。』という業務や役割を表す語に続けて付された『士』の語についても、『一定の資格・役割をもった者。』という意味で用いられているものと自然に理解することができる。したがって、本願商標は、その言語構成に照らし、『死者を棺に納める資格ないし役割をもった者』との意味合いを一般に想起させるものということができる。次に、証拠(甲9ないし40、乙3ないし19)及び弁論の全趣旨によれば、【1】『納棺』の際には、死者の身体を洗い清め、死装束を着せ、髪型を整え、死化粧を施した上で遺体を棺に納める儀式が一般的に執り行われていること、【2】この儀式は、元来は遺族や親族によって執り行われていたが、必要な知識や技能を持つ者が、専業的に、葬儀業者の従業員として、あるいは葬儀業者から請け負って、遺族等とともに執り行われるのが通常であること、【3】葬儀業者等のウェブサイト(乙3ないし12、17ないし19)及び新聞記事...には、この儀式を専業的に執り行う者を『納棺士』と表示している例がみられることが認められる。以上によれば、本件審決日当時、本願商標は、その言語構成に照らし、『死者を棺に納める資格ないし役割をもった者』との意味合いを一般に想起させるものであり、葬儀業者、遺族等によって納棺の際に執り行われる儀式を専業的に提供する者を表す語として認識されるものであったものと認められる。そうすると、本願商標は、本件役務である『納棺、納棺に関する相談、遺体への死化粧の施術』に使用されたときは、その役務が『死者を棺に納める資格ないし役割をもった者』によって提供されるという役務の質を表示するものとして、取引者、需要者である葬儀業者、遺族等によって一般に認識されるものであり、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったものと認められるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、自他役務識別力を欠くものというべきである。加えて、本願商標は、標準文字で構成されているから、『納棺士』の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。」として本願商標が3条1項3号に該当するとした特許庁の判断に誤りはないとして、原告の請求を棄却しました。