原告は、被告の商標「NINA L'ELIXIR」(以下、「本件商標」とする。)は原告所有の引用商標1~3に類似するなどとして商標法4条1項11号、15号で無効審判を請求しましたが、特許庁は、本件商標は、「NINA L'ELIXIR」の構成全体がまとまりよく一体的に表されており、構成全体として一種の造語と理解されるものであり、本件商標から「ELIXIR」の部分のみを抽出して認識するとはいえない等として、請求不成立の審決をしました。原告はこれを不服として本件訴訟を提起しました。
財高裁は、「本件商標についてみると、外観上、本件商標を構成する各文字の大きさ及び書体は同一の全角で、等間隔でまとまりよく一体的に表されており、『NINA』と『L'ELIXIR』の間に空白部分があるものの、その広さは、半角程度にすぎず、全体として横に一行でまとまりよく表されているものであり、『L'ELIXIR』の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできず、まして、『ELIXIR』の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。...原告は、本件商標『NINA L'ELIXIR』を構成する12文字のうち、『ELIXIR』の文字列が占める割合は半分の6文字にも及ぶことから、『ELIXIR』の部分が『L'ELIXIR』の部分の一部にすぎないものとして捉えられるとは考え難く、また、『ELIXIR』の文字列の前部に『'』の記号が配されていることも考慮すると、簡易迅速を尊ぶ取引の場においては、視覚的に『L』との結合性が否定され、『ELIXIR』の部分のみが印象付けられやすいと主張する。しかし、『L'』は、フランス語の表記により、冠詞『Le』の母音字『e』省略して代わりに『'』(アポストロフ)を表示し、後ろに来る語と結びつけて1つの単語として称呼するもので、エリズィヨンと呼ばれるものであるから、フランス語の文法を認識している者であれば、『L'ELIXIR』から『L'』を分離して『ELIXIR』のみを1つの単語として認識するということはない。また、フランス語の文法について知識のない者であっても、本件商標の『L'ELIXIR』の文字部分を視覚的に捉えると、『L』と『'』、と『'』と『E』との間隔は、その後に続く『E』と『L』、『L』と『I』との間隔と同じであるから、『L'ELIXIR』を一体のものとして捉えるのが通常であると考えられる。 ...本件商標は、『L'Elixir』の文字部分あるいは『ELIXIR』の文字部分だけが独立して看取されることはないから、本件商標の『L'ELIXIR』の文字部分又は『ELIXIR』の文字部分が独立して、本件指定商品の取引者や需要者に対して、引用商標の商標権者である原告が本件指定商品の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできず、他にこのようにいえるだけの事実は認められない。さらに、『NINA』の文字は、本件商標の指定商品に関連する一般的、普遍的な文字であるとはいえないから、『NINA』の文字部分に自他商品を識別する機能がないということはできない。このほかに、本件商標について、その構成中の『L'ELIXIR』の文字部分あるいは『ELIXIR』の文字部分を取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないから、本件商標と引用商標の類否を判断するに当たっては、その構成部分全体を対比するのが相当であり、たとえ、引用商標が、本件指定商品の取引者や需要者の間で周知であったとしても、本件商標の『L'ELIXIR』の文字部分あるいは『ELIXIR』の文字部分だけを比較の対象として類否の判断をすることは許されないというべきである。」として4条1項11号に該当しないとの判断を示しました。
また、知財高裁は、「本件商標を見れば、『NINNA』の部分は、NINNA RICCI社の社名から採ったものであることが容易に理解でき、その『NINNA』の部分は、本件商標の構成全体の前半部分に配置されており、印象に残りやすいことから、本件商標を付した商品がNINNA RICCI社の商品であることは、本件指定商品の取引者や需要者が容易に理解、認識し得るものである。したがって、本件商標を本件指定商品に使用した場合、原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあると認めることはできず、他に、本件商標が他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるといえるだけの事実は認められない。」として4条1項15号にも該当しないとの判断を示しました。