原告は、被告の有する本件商標「遠山の金さん」(標準文字)は、4条1項7号に該当するとして無効審判を請求しましたが、請求は不成立となりました。原告は審決の取消をもとめて本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「『遠山の金さん』は、あくまでも『遠山景元』をモデルとした人物を主人公としたテレビ番組のタイトル名や主人公名と認められ、モデルが存在する点において必ずしも架空の人物ということはできないとしても、歴史上実在した人物そのものではなく、その限度で審決の認定判断に誤りはない。...被告は、『遠山の金さん』という名称をタイトル名ないし主人公名として初めて使用した者とはいえないが、昭和25年以降、『遠山の金さん』と呼ばれる主人公が登場する映画を多数作成し、昭和45年以降は、同名のテレビ番組を長期間にわたって多数制作してきたものと認められ、『遠山の金さん』の呼称やイメージを一般大衆に広めることに一定の寄与をした立場にあるといえる。したがって、被告は、遠山景元と血縁関係を有する者の関連する会社や同人の生育地と地縁を有する団体に当たるものではないが、本件商標の登録出願を剽窃的に行ったものということはできない。...『遠山の金さん』がテレビ番組のタイトル名ないし主人公名にすぎないことからすると、本件指定商品における本件商標の使用によって、『遠山景元』という歴史上の人物の名前を独占できるかという公益性のある社会的問題が生じる余地はなく、本件商標によって失われる公益は想定し難い。...被告が『遠山の金さん』シリーズの映画やテレビ番組の制作や配給をしてきたのは上記認定事実のとおりであって、『遠山の金さん』という語を商標登録出願することにより、形成してきたその信用や顧客吸引力を保護しようとすること自体は、商標制度の本質からして非難できるものでもない。...被告が本件商標を登録したことによる法的、社会的影響については、公益的事業において歴史上実在した遠山景元を紹介するに当たって、通称として『遠山の金さん』の表現が併記されることがあるとしても、それは本件指定商品の範囲外で、類似する商品・役務に当たるともいえないから、公益的事業自体に支障が生じるとは考えにくい。」として本件商標は4条1項7号に該当しないとする特許庁の判断に誤りはないとしました。