サクラサク事件 知財高裁平成22年8月19日判決

原告は第2497944号 「サクラサク」のカタカナ文字を書してなる商標の商標権者です。被告はバラ色系の色彩が施され右肩上がりに傾いた桜と思しき5弁の花びらの図形中に「きっと、」と「サクラサクよ。」の句読点を含む文字を二段に配置した構成からなる第5049553号の商標権者です。

原告は、被告の商標は原告の商標に類似するとして、商標法4条1項11号違反で無効審判請求(無効2009-890074号)をしましたが、特許庁は「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を行いました。

原告は、この審決を不服として審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、「本件商標からは、全体として『きっと桜の花が咲くよ。』とか『きっと試験に合格するよ。』といった意味が生じるものといえる。本件商標からは、少なくとも『キットサクラサクヨ』との称呼が生じるものと解される。...本件商標から『サクラサク』という称呼が生じ得る可能性は否定できないが、...決して冗長というほどではなく、短い一文として十分称呼可能な長さであり、本件商標から『サクラサク』という称呼のみが生じるとまではいえない。また、原告は、本件商標において『サクラサク』部分のみが片仮名であるとか、上下二段になっている旨主張するが、本件商標において、特に『サクラサク』部分のみが文字のサイズが大きかったり、色が違うというような事情は存在せず、『サクラサク』部分だけが目立つものではなく、以上からすれば、『サクラサク』部分のみが本件商標の要部であるとはいえない。...引用商標からは、当然に『サクラサク』の称呼が生じるといえる。...(本件商標と引用商標を対比すると)外観上、本件商標は、バラ色系の色彩が施され、右肩上がりに傾いたサクラ様の5弁の花びらの図形中に『きっと、』と『サクラサクよ。』の句読点を含む文字を二段に配置した構成からなる、図柄を含む華やかな商標であるのに対し、引用商標は、単に片仮名の『サクラサク』だけからなる商標であり、両商標は、その外観が大きく異なる。他方で、本件商標からは『キットサクラサクヨ』又は『サクラサク』の称呼が生じ、引用商標からは『サクラサク』の称呼が生じるものであって、その称呼は同一になる場合もあり、少なくともかなり類似するものといえる。また、本件商標からは、『きっと桜の花が咲くよ。』又は『きっと試験に合格するよ。』といった観念が生じ、引用商標からは『桜の花が咲く』又は『試験に合格した』との観念が生じるものといえる。このように、両商標から生じる観念は、一定程度類似するが、引用商標からは、淡々と『桜の花が咲く』又は『試験に合格した』という事実についての観念が生じるのに対し、本件商標からは、受験生等に対するメッセージ的な観念が生じるものといえ、生じる観念はある程度異なるものといえる。...以上を前提とした場合、確かに、本件商標及び引用商標から生じる称呼はかなり類似しており、観念においても、一定程度類似することは否定し得ないが、他方で、もともと『サクラサク』は1つのまとまった表現として常用されており造語性が低く識別力が限られている上、両商標の外観は大きく異なり、取引の実態をも考慮すると、両商標につき混同のおそれはないといえる。」として本件商標と引用商標は、類似せず、4条1項11号には該当しないと判断しました。

テレビまんが事件 東京地裁昭和55年7月11日判決

原告は、「テレビマンガ」の登録商標を持っています。被告は、カルタの容器に「テレビまんが\一休さん」の表示をして販売しています。原告は、被告の行為は商標権の侵害行為に該当するとして、差止請求等を行いました。

東京地裁は、「同法(商標法)における商標の保護は、商標が自他商品の識別標識としての機能を果たすのを妨げる行為を排除し、その本来の機能を発揮できるよう確保することにあると解すべきである。さすれば、登録商標と同一又は類似の商標を商品について使用する第三者に対し、商標権者がその使用の差止等を請求しうるためには、右第三者の使用する商標が単に形式的に商品等に表されているだけでは足らず、それが、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。すなわち、登録商標と同一又は類似の商標が商品について使用されている場合、それが自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているときは、商標権者は、自己の登録商標の本来の機能の発揮を妨げるものとしてその使用を禁止しうるけれども、それが自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されていると認められないときは、その商標の使用は本来の商標としての使用ということができず、商標権者は、自己の登録商標の本来の機能の発揮を妨げられないがゆえに、その商標の使用を禁止することができないのである。。...『テレビまんが』、『テレビ・マンガ』、『テレビ漫画』なる語は、テレビ放送用に製作された漫画映画を意味するものとして、本件登録商標についての商標登録出願前から普通に用いられているものであり、現在も同様であることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はなく、また、成立に争いがない乙第九号証及び証人【A】の証言、本件口頭弁論の全趣旨によれば、昭和五〇年一〇月から少なくとも本件口頭弁論終結時まで、訴外東映動画株式会社が周知の昔話『一休さん』を基礎に登場人物及び話の筋に創作をも折込んで製作したテレビ漫画映画『一休さん』が、毎週一回、日本教育テレビ(現テレビ朝日)系列の全国ネツトでテレビ放送されていること(被告が本件カルタを販売したのは、右東映動画株式会社から、右テレビ漫画映画についてのいわゆる商品化権の実施許諾を受けたことに基づくものであること)が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。」として、被告標章の使用は、商標的使用態様に該当しないので非侵害であるとしました。

通行手形事件 東京地裁昭和62年8月28日判決

原告は、「木製で将棋の駒形に形成されており、その頂部付近に穴があけられてこれに鈴を結んだ吊り紐が結びつけられ、車内や室内の各所に吊り下げられるようにされたものであり、その一方の面の中央部には『通行手形』の文字が縦書きに大書され、かつ、その脇に『交通安全』等の文字が記載され、他方の面には名所、旧跡等にちなんだ文字、風景又は人物の絵などが描かれているもの」を販売しています。

被告は、「通行手形」の文字を縦書きにした商標の商標権者及び専用使用権者です。 被告は、原告の行為は商標権の侵害にあたるとして、販売の停止などを求めてきたので、原告は本件の差止請求権不存在確認訴訟を提起しました。

東京地裁は、「本件各物件に付された『通行手形』の文字は、本件各物件が歴史上実際に用いられた通行手形を模したものであることを表現し、説明するため、記述的に用いられているものであり、自他商品の識別機能を果たす態様で用いられているものではないことが明らかである。してみると、原告らが『通行手形』なる文字を付した本件各物件を製造販売したとしても、右『通行手形』の文字を商標として使用していることにはならず、本件商標権、又は本件専用使用権を侵害することにはならないと認められる。」として、原告の行為は商標権侵害にあたらないと判断しました。

ケンちゃん餃子事件 大阪地裁平成21年3月26日判決

本件は、先使用による商標の使用をする権利の確認請求事件です。原告であるケンちゃん餃子株式会社は、被告の登録商標に類似する「原告標章1」ないし「原告標章5」を使用しています。平成14年ころ、原告が原告各標章を使用することについて、被告が異議を述べたことから、原告は、被告に対し、協議を申し入れた。

しかし、被告は、原告の申し入れに応対しなかったため、原告は、被告を相手方として、大阪簡易裁判所に調停を申し立てたが(平成18年(メ)第200号)、平成19年3月6日不成立に終わったため、原告は本件の訴訟を提起しました。
大阪地裁は、「原告各標章を付した原告商品の売上は、少なくとも、本件地域を中心に7億円前後というものであり、新潟工場による製造、販売も合わせると、これを相当程度上回る。...本件地域において、ラジオCMを放送したことも考慮すると、遅くとも、本件商標の出願(平成8年12月6日)の際には、原告各標章は、原告商品の商品表示として、本件地域を中心に、需用者の間に広く認識されるに至ったと認めることができる。」として、先使用による商標の使用をする権利を取得したということができると判断しました。

ミルクドーナツ事件 東京高裁昭和49年9月17日判決

原告は、角ゴシツク体で「ミルクドーナツ」の片仮名文字を左横書きして成る商標を第30類「菓子、パン」を指定商品として出願しましたが、商標法3条1項3号で拒絶査定を受けました。原告は拒絶査定不服審判を請求しましたが、棄却審決となったため、本件訴訟が提起されました。
東京高等裁判所は、「本願商標は『ミルクドーナツ』の片仮名文字を角ゴシツク体で左横書きにしたものであるから、商品の品質を普通に用いられる方法で表示したものということができる。」と判断しました。

しかしながら、原告は、ドーナツの製造を開始した当初から、本願商標を付して販売しており、昭和四七年度上半期までの売上合計額は二四億九二〇〇万円に達していました。また原告は、テレビCMを週に3日流す等広告も積極的に行っていたので、これらのことを総合的に勘案して東京高裁は、「当時市場には他に本願商標と同じ標章を使用した商品は存在しなかつた事情もあつて、以上述べたように、原告会社の製造するドーナツの業界における好評判と原告会社の多種多様な手段を用いた宣伝広告の結果、おそくとも本件審決がなされ昭和四七年三月頃までには、本願商標は特定の業者が製造するドーナツを示すものとして、東京都を中心に全国にわたつて取引者および一般需要者間に広く認識されるに至つた。」として使用による識別力(3条2項)を獲得したと判断しました。

気功術事件 東京地裁平成6年4月27日判決

原告は指定商品「新聞・雑誌」について「気功術」の商標権を有しています。被告は、通信講座のテキストの表紙に、「気功術」、「実践講座」と縦書きで二行にわたって表示していました。
原告は、被告に行為は商標権侵害にあたるとして本件訴訟をおこしました。

東京地裁は、「被告商品に用いられている『気功術』の語又は、『気功術実践講座』の語のうちの『気功術』のみを独立するものとみても、気功術は、前記二1認定のとおり、中国古来の健康法、治療法、鍛練法である気功のしかた、方法を表す普通名称であり、気功術の基礎知識、基本姿勢、内功術等を説明した被告商品の内容を端的に表すものとして付された書籍の題号と認められ、また、『実践講座』の語も、ものごとの実践を学ぶための講座に一般的に用いられる用語であるから、『気功術実践講座』の語を一体のものと解しても、気功術の実践を学ぶための講座という被告商品の内容を端的に表すものとして付された書籍の題号であると認められ、いずれにしても、被告商品であるテキスト教材の内容、即ち、商標法二六条一項二号所定の商品の品質を、普通に用いられる方法で表示しているに過ぎず、同条一項の規定により、本件商標権の効力は及ぶものではない。」として商標権の侵害にあたらないと判断しました。

特許管理士事件 東京高裁平成11年11月30日

本件において、原告は登録第765759号商標「特許管理士」の商標権者でした。被告である弁理士会は、原告の商標は本来弁理士のみがなし得る業務をも扱うことのできる資格名称であると一般の国民に誤認させるものであるから商標法4条1項7号に該当するとして、無効審判を請求しました。

特許庁は、弁理士会の主張を認めて、本件商標を無効にしました。原告は、これを不服として本件訴訟を提起しました。
東京高裁は、「『特許管理士』の語は、本件商標の登録査定時において、既に、一般国民の間において、現実には弁理士にしか許されていない業務を行う資格を有する者と誤信され、弁理士と混同されるおそれがあったものと認められるから、そのころ既に、弁理士法22条の3にいう『弁理士ニ・・・類似スル名称』に該当すると判断されるものであったということができる。」として原告の訴えを退けました。

シバ商標事件 東京高裁 昭和48年2月23日判決

原告は、角ゴシック体で「シバ」の仮名文字を左横書してなる商標について第三類の「染料」等について商標出願し、商標法3条1項4号で拒絶査定を受けたので、審判を請求しましたが、請求は棄却されました。

原告はこれを不服として審決取消訴訟を提起しました。 東京高裁は、「本願商標『シバ』は、片仮名文字の『シ』と『バ』の結合からなり、『シバ』の称呼を生ずるものであり、この呼称より、一般に氏姓としての『芝』『柴』『欺波』『司馬』または事物の名称としての『芝』(芝草)および『柴』(雑木)あるいは東京都の地名としての『芝』を連想すると解するのが社会通念に照らし相当であるところ、一方、『芝』なる氏姓は、原本の存在およびその成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(東京二十三区五十音別電話番号簿上巻)に三欄にわたり掲載せられている事実に徴すれば、『芝』なる氏姓は、わが国において、数多く存在する一般的な氏であることぎ明らかであり、また、本願商標『シバ』は、その構成自体に何ら特別のものはないから、本願商標は、商標法第3条第1項第4号に規定する商標であると認めるを相当とする。」と判断しました。

招福巻事件 大阪高裁平成22年1月22日判決

被控訴人(原告)は、登録商標「招福巻」(以下、「本件商標」とする)を有しています。控訴人(被告)であるイオン株式会社は、全国でスーパーマーケット「ジャスコ」を展開し、ジャスコ各店舗で節分用に販売した巻き寿司の包装に「十二単の招福巻」なる標章(控訴人標章)を付す等していました。被控訴人(原告)は、控訴人(被告)の行為は、商標権侵害に該当するとして商標法36条に基づき差止請求等をしました。
大阪高裁は、「『招福巻』は、巻き寿司の一態様を示す商品名として、遅くとも平成17年には普通名称となっていたというべきである。もっとも、『招福巻』が、本件商標の指定商品に含まれる巻き寿司について登録商標であることが一般に周知されてきていれば格別であるが、被控訴人が警告をし始めたのはようやく平成19年になってからであり、本件全証拠によってもその時点までに本件商標が登録商標として周知されていたと認めるに足りず、かえって上記警告の時点までに『招福巻』の語は既に普通名称化していたものというべきである。さらに、控訴人標章中『招福巻』の部分の使用は、前記認定に係るその書体、表示方法、表示場所等に照らし、商品名を普通に用いられる方法で表示するものと認めることができる。」として控訴人標章中「招福巻」の部分は、法26条1項2号の普通名称を普通に用いられる方法で表示する商標に該当するので商標権侵害には該当しないと判断しました。

PHOTO―DIRECT事件 東京高裁 昭和46年9月9日判決

本件は登録要件の判断時についての判決です。

原告は、「PHOTO―DIRECT」の欧文字をゴシツク書体で横書きしてなる商標について、第9類「写真製版機械器具」等を指定商品として、商標出願しましたが、「『フオト・ダイレクト・プロセス』の語は写真を製版する場合の一方法を示すものとして熟知された用語」であるとして、商標法3条1項3号及び4条1項16号で拒絶審決を受けました。 原告は、これを不服として審決取消訴訟を提起しました。

本件訴訟の中で、原告は、商標法第3条第1項第3号の適用判断の基準時は、商標登録出願時でなければならないとの主張をしました。

それに対して、東京高裁は「同条項の適用判断の基準時は、査定または審決の時と解するのが相当である。けだし、商標法第3条第1項は、商標の登録に関する積極的な要件ないしは商標の一般的登録要件に関する規定、換言すれば、登録を出願している商標がそれ自体取引上自他の商品を識別する機能を有すべきことを登録の要件とする趣旨の規定であつて、同項各号にかかる識別的機能を有しないものを列挙し、このようなものについては登録を拒絶すべきことを法定したものというべく、したがつて、このような要件の存否の判断は、行政処分(商標登録の許否が一の行政処分であることはいうまでもない。)の本来的性格にかんがみ、一般の行政処分の場合におけると同じく、特別の規定の存しない限り、行政処分時、すなわち査定時または審決時を基準としてすべきものと解するのが相当であるからである」との判断を示しました。

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