ライサポ事件 大阪地裁平成26年6月26日判決

原告は、指定役務を、「第39類 車両による輸送、船舶による輸送、航空機による輸送、主催旅行の実施等」及び「第42類 老人の養護、高齢者の介護又は看護、身障者の介護又は看護等」とする片仮名文字「ライサポ」(以下、「本件商標」とする。)の商標権者です。被告は、障害者・高齢者市民の生活を支援等することを目的とする特定非営利活動法人で、ホームヘルパー派遣・育成・研修及びコーディネートに関する事業等を行っています。被告はWEBサイトやブログを開設し、その中で、「ライサポいけだ」の語句(以下「被告標章」という。)や「lispo-ikeda.jp」のドメイン(以下、「本件ドメイン」という。)を使用していました。原告は、被告による被告標章及び本件ドメインの使用は原告の商標権を侵害するものであるとして、使用の差止及び損害賠償を請求しました。被告標章及び本件ドメインが本件商標に類似するかについて、大阪地裁は以下のような判断をしています。
【1】被告標章が本件商標に類似するかについて
大阪地裁は、「原告は、被告標章のうち、地名である『いけだ』の部分に識別力はなく、『ライサポ』が要部であるから原告商標と類似する旨主張する。しかしながら、この主張は採用できない。...原告商標と被告標章の類似の有無については、被告標章の現実的な使用態様を前提に、誤認混同のおそれを判断すべきところ、被告標章の使用態様については、本件ウェブサイトを閲覧する者は、いずれも目立つよう大書された、被告の正式名称である『特定非営利活動法人ライフサポートネットワークいけだ』、あるいはブログのタイトルである『ライフサポートネットワークいけだのブログ』をまず認識し、その後に、バナー、イラスト、記述的文章の中に、被告標章である『ライサポいけだ』が使用されていることを認識するものと考えられる。そうすると、本件ウェブサイトを閲覧する者は、被告の正式名称またはブログのタイトルから、本件ウェブサイトを管理運営しているのは、池田市に本拠を置く、生活(ライフ)を支援(サポート)することを目的とする団体である旨の観念を抱いた後に、被告標章に接することになるから、被告標章が被告の正式名称の略語であることは容易に認識され、被告標章についても、同様に、池田市に本拠を置く、生活を支援することを目的とする団体であるとの観念を抱くものと考えられる。すなわち、被告標章の現実的な利用形態に照らすと、本件ウェブサイトを閲覧し被告標章に接する者は、被告標章を一体として認識し、『ライサポ』のみを抽出して捉えることはなく、上記のとおり、池田市に本拠を置く、生活を支援することを目的とする団体である旨の観念を抱くと考えられるから、単に『ライサポ』の文字からなる原告商標との間に誤認混同のおそれはなく、両者は類似しないというべきである。」として両者は非類似であると判断しました。

【2】本件ドメインが本件商標に類似するかについて
 大阪地裁は、「一般に、ドメインネームにおいて、自他識別機能を有する部分は、『.jp』『.co.jp』など(トップレベルドメイン等)を除いた部分であるから、本件ドメイン名においては、『lispo-ikeda』がこれに該当する。他方、ドメインネームは、和文字を使うものもあるが、ほとんどの場合は英文字の標準文字(特定の字体をもたないもの)の組み合わせによる以外の表現はとりえないところ、当該文字列から、直ちに『ikeda』の部分が大阪府内の一市町村を指す地名であると判明するとはいえないから、同部分が識別力を欠き、『lispo-』の部分のみが要部を構成するものということはできない。したがって、本件ドメイン名の要部は、『lispo-ikeda』である。(外観について)本件ドメイン名の要部は、『lispo-ikeda』との英文字を、標準文字で横一列に表記するものである。『lispo』の部分は、辞書の見出し語としては存在しないので、アルファベットをそのまま発音することにより『エルアイエスピーオー』の称呼を生じる。また、これを英語風に発音することにより『リスポ』の称呼を生じる。『ikeda』の部分は、特定の日本語のローマ字表記であると想到する余地があるから、『イケダ』の称呼を生ずる。したがって、本件ドメイン名の要部から生じ得る称呼は、『エルアイエスピーオー・イケダ』又は『リスポ・イケダ』となる。上記外観及び称呼を前提とすると、本件ドメイン名の要部からは、特定の観念を生じない。また、『lispo』と『ikeda』に分けた場合、『ikeda』の部分が人名ないし地名であるとの観念を生じることはありうるが、『lispo』の部分から特定の観念が生じることはない。何らかの単語の先頭の音節を組み合わせるとしても、その組み合わせに唯一のものを見いだすことはできない。上記のとおり、原告商標と、本件ドメイン名の要部を外観、称呼及び観念において対比すると、類似する要素がないから、原告商標と本件ドメイン名は類似するものと認められない。」として両者は非類似であると判断しました。

LOOPWHEEL事件 知財高裁平成25年12月26日判決

被告は、指定商品を第25類「被服(「和服」を除く。)、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)、げた、草履類」とする「LOOPWHEEL(標準文字)」(以下、「本件商標」とする。)の商標権者です。原告は、本件商標に対して無効審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

本件訴訟の争点は下記の2点で知財高裁は以下の通り判断しています。

取消事由【1】(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)知財高裁は、「『LOOPWHEEL』等の語に関する繊維関連の専門書、辞書及び辞典類の記載、インターネットにおける使用例及び雑誌の記載等から、本件商標の登録査定日である平成24年5月15日の時点において、本件商標の指定商品の取引者、需要者によって『LOOPWHEEL』の語が『巻き上げ機』又は『吊り編み機』を意味するものと一般に認識されるものであったとは認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件商標の登録査定日の時点において、本件商標に接する取引者、需要者によって、本件商標が『巻き上げ機又は吊り編み機で編まれた生地を使った被服』あるいは『巻き上げ機又は吊り編み機で編まれた被服』程度の意味合いを認識させ、指定商品の被服の品質を表示したものとして認識されるものであったとは認められない。」として原告の主張は、理由がないとしました。

取消事由【2】(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)知財高裁は、「本件商標の登録査定日の時点において、本件商標に接する取引者、需要者によって、本件商標が『巻き上げ機又は吊り編み機で編まれた生地を使った被服』あるいは『巻き上げ機又は吊り編み機で編まれた被服』程度の意味合いを認識させ、指定商品の被服の品質を表示したものとして認識されるものであったとは認められず、本件商標が編み機(『巻き上げ機』あるいは『吊り編み機』)を意味する語として、取引者や需要者によって認知されていたとはいえないから、原告の上記主張は、その前提において、採用することができない。」として原告の主張は理由がないとしました。

LADY GAGA事件 知財高裁平成25年12月17日判決

原告は、第3類、第9類、第14類、第16類、第18類、第25類及び第41類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務とする「LADY GAGA」の文字を標準文字で表してなる商標を出願しましたが、拒絶理由通知を受けたので、第9類「レコード、インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル、映写フィルム、録画済みビデオディスク及びビデオテープ」を指定商品とする本願商標について分割出願しました。しかし、本願商標も拒絶査定を受けたので原告はこれを不服として拒絶査定不服審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされたため、原告は本件審決取消訴訟を提起しました。
本件訴訟の争点は3つで、知財高裁は以下のように判断しています。

取消事由【1】(本願商標の自他商品の識別力を認定するに当たり、具体的な使用態様を限定して判断を行ったことの誤り)について知財高裁は、「審決は、本願商標を、本件商品である『レコード、インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル、録画済みビデオディスク及びビデオテープ』に使用した場合に、取引者・需要者が、当該商品に係る収録曲を歌唱する者、映像に出演し、歌唱している者を表示したものと認識することを理由として、本願商標の商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性を判断したものであるところ、上記の認識は、本件商品の媒体表面やジャケットにおける一般的表示に基づいて認定されたものであり、特定の表示方法を前提としたわけではないから、具体的な使用態様を限定して判断を行ったものとは認められない。」として取消事由【1】には理由がないとの判断を示しました。

取消理由【2】(本願商標の自他商品識別力の有無に関する判断の誤り)について知財高裁は、「本願商標の指定商品中、本件商品である『レコード、インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル、録画済みビデオディスク及びビデオテープ』においては、当該商品に係る収録曲を歌唱する者、又は映像に出演し歌唱している者が誰であるかは、当該商品の主要な品質(内容)に該当するから、原告の主張には理由がない。...原告は、歌手名を表す文字からなる商標であっても、直ちに『レコード』等の商品との関係で特定の品質を表すことがないので、登録を認めても差支えがないと主張して、過去の登録例を挙げる。しかし、本件商品においては、当該商品に係る収録曲を歌唱する者、又は映像に出演し歌唱している者が誰であるかは、当該商品の主要な品質(内容)に該当することは、上記に判示したとおりであり、本件商品のうち『LADY GAGA』(レディ(ー)・ガガ)が歌唱しないものに本願商標を使用した場合、商品の品質について誤認を生ずるおそれがあることは、上記に判示したとおりである。このことは、原告の指摘する登録例の存在によって左右されるものではない。」として原告の主張には理由がないと判断しました。

取消理由【3】(本願商標のような歌手名等が現実に自他商品の識別標識として機能している事実を看過したことの認定の誤り)について知財高裁は、「本件商品の取引においては、販売元・発売元であるレコード会社・音楽レーベルの名称・ロゴを目印として商品が選択されるより、歌手名・音楽グループ名それ自体を目印として商品が選択されることが一般的であると認められ、このことは当事者間にも争いがない。これは、前記のとおり、本件商品の性質上、その取引者・需要者が、当該商品に係る収録曲を歌唱・演奏する者又は映像に出演し歌唱・演奏する者に最も注目し、これを当該商品の品質(内容)と認識するためであると認められる。取引される商品によっては、人の名称やグループ名が当該商品に表示された場合に出所表示機能を有することは否定できないが、本件商品については、商品に表示された人の名称やグループ名を、取引者・需要者が商品の品質(内容)とまず認識するものといわなければならない。そして、表示された人の名称やグループ名が、著名な歌手名・音楽グループ名である場合には、取引者・需要者は、これを商品の品質(内容)とのみ認識し、それとは別に、当該商品の出所を表示したものと理解することは通常困難であると認められる。」として原告の主張には理由がないとしました。

パールフィルター事件 知財高裁平成25年12月25日判決

被告は、第34類「たばこ」を指定商品とする「PEARL」の欧文字と「パール」の片仮名の二段書き商標の商標権者です。原告は、平成24年5月18日、被告を被請求人として、特許庁に対し、本件商標について商標法50条1項に基づく登録取消審判(取消2012-300403号。以下「本件審判」という。)を請求しましたが、本件審判の請求は不成立となったためこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「本件各広告においては、『パール』や『PEARL』は、本件商品の二次的ブランドである『パールフィルター』や『PEARL FILTER』との商標の一部として使用されているにとどまるものである。『パールフィルター』や『PEARL FILTER』との商標は、本件商品の二次的ブランドとして使用されているものである以上、取引者及び需要者はこれを一連一体のものとして認識し、把握するものであって、『パール』や『PEARL』のみを分離して認識し、把握するものではない。」とし、本件各広告における使用は社会通念上同一の商標の使用には当たらないとしました。

ファンタジーライフ事件 知財高裁平成24年7月12日判決

原告は、「ファンタジーライフ」の標準文字商標を出願しましたが、4条1項11号に該当するとして拒絶査定を受けたので拒絶査定不服審判を請求しました。しかしながら、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けたので原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「引用商標は、『fantasy LIFE』の部分と『mabinogi/マビノギ』の部分とからなる結合商標と解されるところ、『mabinogi/マビノギ』の部分は、『fantasy LIFE』の部分よりも大きく(高さは約5倍、幅は約2倍)かつ特徴的な書体で表され、同部分からは特定の観念を生じないか、物語の題号の1つである『マビノギ』の観念を生じさせるから、造語ないし固有名詞として認識され、取引者、需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。また、同部分から『マビノギ』の称呼が生じることは明らかである。他方、『fantasy』の語は、『空想、夢想、ファンタジー』を意味する平易な英語であって、『ファンタジー』の語は、コンピュータゲームの分野においてゲームのジャンル(『空想上の人生・生活を体験することを内容としたゲーム』)を指すものとして使用されているから、引用商標の構成中『fantasy LIFE』の部分は、取引者、需要者にコンピュータゲームのジャンルを示すものと認識されることが多いものと認められ、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとは認められない。上記のとおり、引用商標の構成中、『fantasy LIFE』の部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めることはできず、他方、『mabinogi/マビノギ』の部分から出所識別標識として固有の称呼を生じ、観念を生じ得るのであるから、引用商標の構成中『fantasy LIFE』の部分だけを抽出して本願商標と対比することは許されないというべきである。そして、本願商標と引用商標の構成部分全体を対比すると、両者は外観において著しく異なり、観念、称呼において一部共通するものの、取引の実情を考慮するならば、類似するとはいえない。したがって、本願商標と引用商標の類否について、外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、具体的な取引状況に基づいて全体的に考察すると、本願商標と引用商標が、役務における出所の誤認混同を生じるおそれはなく、両商標は類似しないから、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断には誤りがある。」として審決を取消しました。

プラス事件 東京地裁平成24年6月28日判決

本件は、第35類「広告」等について「+ PLUS」の商標権を持つ原告が、レンタルサーバーを運営している被告に対し、商標権侵害、不正競争防止法2条1項1号及び2条1項2号の不正競争行為を理由として、プロバイダ責任制限法に基づき、発信者情報開示請求が行われた事件です。
東京地裁は、「原告は、創業当時から原告商品等表示を使用し、昭和39年12月からは原告商品等表示を付した商品カタログを発行してきた。原告の商品や役務は、一般紙、経済紙、地方紙、雑誌、テレビ、ラジオ等の媒体を通じて紹介されることがあるが、平成22年5月21日から平成23年5月20日までを例にとって、この間に紹介された媒体を集計してこれを広告費に換算すると、16億8333万円余りに及ぶ。...認定事実によれば、平成23年8月までには、原告商品等表示は原告の営業を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認められる。...本件各標章の要部は、『PLUS』あるいは『Plus』の部分であって、本件各標章は周知の原告商品等表示に類似するから(このことは、被告も認めるところである。)、本件ウェブページ上でその営業を表示するものとして本件各標章を使用する行為は、不競法2条1項1号に該当し、原告の営業と混同を生じさせるものということができる。そして、本件において、特段の事情があることは窺えないから、本件ウェブページ上で本件各標章を使用する行為によって原告の営業上の利益が侵害されたものと認められる。」 として原告の請求を認容しました。

VOSS事件 知財高裁平成24年2月21日判決

本件は、訴外Sによる異議申立に対する取消決定取消請求事件です。原告と訴外Iは、アルファベットとカタカナの二段書きからなる商標「VOSS\フォス」(以下、「本件商標」とする。)の商標登録を受けていましたが、訴外Sにより登録異議申立がなされました。その結果、本件商標は4条1項11号に該当するとして、取消決定を受けました。原告はこれを不服として、本件訴訟を行いました。
知財高裁は、「本件商標は、...その上段に『VOSS』の欧文字、下段に『フォス』の片仮名が記載されている。そして、証拠によれば、『VOSS』とはノルウェー産のミネラルウォーターのブランドで、ノルウェー語で『滝』という意味を有し、ノルウェーの山間の小さな町の名であるが、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語では『VOSS』という語は日常レベルの語としては存在しないことが認められ、以上からすれば、我が国において、本件商標から特段の観念が生じるとはいえず、また、本件商標の下段に『フォス』と記載されていることから、原則として『フォス』との称呼が生じるものといえる。この点につき、本件決定は、本件商標においては『VOSS』の欧文字部分から、これを英語風に読んだ『ヴォス』の称呼が生じる旨認定し、被告もその旨主張する。確かに、『VOSS』を英語読みすると『ヴォス』となるため、本件商標からは『ヴォス』との称呼も生じ得るものと解される。しかし、一般に、欧文字と仮名文字とを併記した構成の商標において、その仮名文字部分が欧文字部分の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識できるときは、仮名文字部分より生ずる称呼が、その欧文字部分より生ずる自然の称呼とみるのが相当である。...本件商標と引用各商標とでは、そもそもイラストの有無を含め、外観において大きく異なる上、観念においても、本件商標からは特段の観念が生じないのに対し引用各商標からは、『缶コーヒーのボス』や『パイプをくわえた男性』といった観念が生じるものである。そして、本件商標からは、基本的に『フォス』との称呼が生じるのに対し、引用各商標からは、『ボス』、『ボスコーヒー』ないし『サントリーコーヒーボス』との称呼が生じ、ここでも非類似というべきである。 以上のとおり、本件決定が『本件商標と引用各商標とは類似する』とした判断は誤りというべきであり、指定商品の類否について判断するまでもなく、本件商標と引用各商標につき商標法4条1項11号を適用した本件決定は誤りである。」との判断を示し、特許庁の決定を取消しました。

ユジャロン事件 知財高裁平成23年1月25日判決

原告は、被告の第4906932号「YUJARON\ユジャロン\」(以下、「本件商標」とする。)に対して、不使用取消審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決がなされました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。争点は、被告の各使用標章が、本件商標と社会通念上同一であるかどうかです。
知財高裁は、「本件商標は、アルファベット(欧文字)の大文字のみからなる『YUJARON』、片仮名からなる『ユジャロン』、ハングル文字からなる『』を概ね同じ大きさ、明朝体ないしこれと同等の書体で、横三段書きしてなる外観を有するものであり、上記アルファベット文字部分、片仮名部分、ハングル文字部分との間で格別の体裁の差は存しない。...我が国に居住する韓国・朝鮮系の者が少なくないことや、近年韓国等から朝鮮半島に由来する商品が多数輸入されて消費されたり、韓国で製作されたテレビ番組や映画が多数放映・上映されたりして、韓国等の文化や食品等の我が国における知名度が向上しているとはいえ、我が国の『茶』の消費者一般にとっては、未だ韓国語ないしハングル文字の理解力が一般人にまで十分であるとはいい難いのであって、需要者において、本件商標のハングル文字部分『』につき、併記されている『ユジャロン』の文字から、おそらくこのハングル文字も同じく称呼すると認識する可能性もあり得るものの、すべての者がこれを読んで正しく称呼したり、その意味内容を理解したりするには至らないものと理解される。なお、仮に本件商標が朝鮮半島に由来する飲料である『柚子茶』の容器等に付されて使用され、また我が国の消費者において『柚子茶』が朝鮮半島に由来する飲料であると知って被告らが販売する『柚子茶』を購入する消費者(需要者)があるとしても、そのような消費者であっても韓国語ないしハングル文字を全く解しない者も少なくないものと容易に推認できる。...『』がハングル文字であること自体は我が国の需要者の間でも一般的認識となっていると推測され、この部分を独立の図形として商標の構成を評価するのは相当でなく、この部分も、称呼は判然としないものの何らかの文字を表すものとして、本件商標からは、『YUJARON』と『ユジャロン』の部分を合わせて一体として『ユジャロン』との称呼が生じると解される一方、これは被告株式会社ビュウの代表者が創作した造語であるから(弁論の全趣旨)、そこからは特段の観念は生じない。商標として使用されたと認められる前記各使用標章からは、『ユジャロン』の称呼が生じることが明らかであるし、本件商標のアルファベット部分又は片仮名部分の一方又は双方と同一の文字列をその構成部分としているものであるから、前記各使用標章と本件商標とは社会通念上同一の商標であると評価することができる。なお、『』の部分については前記のとおり図形として評価するよりも文字として評価するのが相当であるから、前記各使用標章と本件商標の外観の相違は、上記評価を左右するものではない。」との判断を示し、審決に誤りはないとしました。

PITAVA事件 東京地裁平成26年8月28日判決

原告は、第5類薬剤を指定商品とする商標「PITAVA(標準文字)」の商標権者です。被告は、製薬会社であり、被告製品である錠剤に「ピタバ」の文字等(以下「被告標章」とする)を付していました。原告は、被告による各被告商標の使用は原告の商標権を侵害するものであるとして被告標章の使用の差止及び被告標章を付した薬剤の廃棄を求めました。本件訴訟の争点は、被告標章の使用が商標的使用に当たるかどうかです。

東京地裁は、「被告標章は、別紙被告商品目録記載のとおり、『ピタバ』の片仮名を被告商品(錠剤)の上半分に外縁に沿って等間隔に配置した標章である。被告標章は、被告商品1については、『明治』の漢字及び『1』という含量を示す数字と併せて錠剤の片面に表示されており、被告商品2及び3については、『2』ないし『4』という含量を示す数字と併せて錠剤の片面に表示され、裏面には『MS』の英文文字及び3桁の数字が表示されている。...ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする医療用後発医薬品の販売名には、医薬品の販売名等の類似性に起因した医療事故を防止するために、一般的名称である『ピタバスタチンカルシウム』及び剤型、含量、会社名(屋号等)を付さなければならないこととされている。また、錠剤に販売名等を印刷もしくは刻印する方法は、製薬業界において一般的に行われている。...原告は、平成25年10月17日付けで、『ピタバ(標準文字)』を登録商標とする商標登録出願をしたが、特許庁審査官は、平成26年3月4日付けで、『ピタバ』の文字は、指定商品を取り扱う業界において、『ピタバスタチンカルシウム』又は『ピタバスタチン』の略称として使用されているから、単に商品の原材料、品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるなどとして拒絶理由を通知し、同年6月12日に拒絶査定をした。原告は、キョーリンリメディオ株式会社に対し、平成25年12月19日付け商標使用許諾契約により通常使用権を設定しているところ、キョーリンリメディオ株式会社の発売するピタバスタチンカルシウムを有効成分とする錠剤には、『ピタバ』及び『杏林』並びに『1』ないし『2』という表示があり、パンフレットには、『一錠毎に成分名と含量を表示』という記載がある。以上によれば、被告標章は、被告商品の有効成分であるピタバスタチンカルシウムの略称として被告商品(錠剤)に表示されているものであって、その具体的表示態様は、本件商標権の使用許諾を受けているキョーリンリメディオ株式会社のそれと何ら異なるものではない。そうすると、被告商品の主たる取引者、需要者である医師や薬剤師等の医療関係者は、被告商品に接する際、その販売名に付された会社名(屋号等)『明治』に加えて、被告商品のパッケージであるPTPシートに付された『明治』との表示や被告商品に併せて表示されている『明治』や『MS』の表示によってその出所を識別し、錠剤に表示された被告標章は、被告商品の出所を表示するものではなく、有効成分の説明的表示であると認識すると考えられる。」として被告標章の使用は商標的使用に該当しないとして、原告の請求を棄却しました。

クラブハウス事件 知財高裁平成22年4月14日判決

原告は、商標「CLUBHOUSE\クラブハウス」(以下「本件商標」とする。)の商標権者です。被告は、本件商標に対して不使用取消審判を請求しましたところ、特許庁は商標登録を取消す旨の審決を行いました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。争点は、原告のメールマガジンにおける「クラブハウス」標章の表示行為が商標法2条3項8号の使用にあたるかどうかです。
知財高裁は、「商標の使用があるとするためには、当該商標が、必ずしも指定商品に付されて使用されていることは必要ではないが、その商品との具体的関係において使用されていなければならない(最高裁昭和42年(行ツ)第32号同43年2月9日第二小法廷判決・民集22巻2号159頁)。...原告は、メールマガジン及びWeb版に『クラブハウス』なる標章を表示している。メールマガジン及びWeb版には、加工食料品を中心とした原告商品に直接関係し、原告商品を広告宣伝する情報が掲載されているから、メールマガジン及びWeb版は、顧客に原告商品を認知させ理解を深め、いわば、電子情報によるチラシとして、原告商品の宣伝媒体としての役割を果たしているものということができる。このように、メールマガジン及びWeb版が、原告商品を宣伝する目的で配信され、多数のリンクにより、直接加工食料品等の原告商品を詳しく紹介する原告ウェブサイトの商品カタログ等のページにおいて商品写真や説明を閲覧することができる仕組みになっていることに照らすと、メールマガジン及びWeb版は、原告商品に関する広告又は原告商品を内容とする情報ということができ、そこに表示された『クラブハウス』標章は、原告の加工食料品との具体的関係において使用されているものということができる。...『クラブハウス』の表示はメールマガジンの名称としても使用されていることは否定することができない。しかしながら、商標法2条3項1号所定の使用とは異なり、同項8号所定の使用においては、指定商品に直接商標が付されていることは必要ではないところ、リンクを通じて原告のウェブページの商品カタログに飛び、加工食料品たる原告商品の広告を閲覧できること、そして、そのような広告はインターネットを利用した広告として一般的な形態の一つであると解されることからすると、原告のメールマガジン及びWeb版における『クラブハウス』の表示が、原告商品に関する広告に当たらないということはできない。また、被告は、原告のメールマガジン及びWeb版には、全体の商品には『ハウス食品』商標が表示され、個々の商品にはそれぞれ個々の商標が表示されているから、『クラブハウス』標章が表示されているとしても、商品についての使用に当たらないとも主張する。しかしながら、個々の商品に2つ以上の商標が付されることもあり得るところ、製造販売の主体である原告を表す『ハウス食品』商標が付されているからといって、原告商品を宣伝する目的で配信されるメールマガジン及びWeb版に原告を表す『クラブハウス』標章を付すことが、商標の使用に当たらないということはできない。...原告のメールマガジンに付された『クラブハウス』標章は、上下2段で表された本件商標の下段と同一であり、その結果、本件商標と同一の称呼及び観念を生ずるものということができる。よって、上記『クラブハウス』標章は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標に当たる。...以上のとおり、原告は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、加工食料品を中心とする原告商品に関する広告又は原告商品を内容とする情報であるメールマガジン及びWeb版に、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付し、これを電磁的方法により提供したものである。原告の上記行為は、商標法2条3項8号に該当する。」として、本件審決の認定判断は誤りであるとして審決を取消しました。

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