原告は、商標「スーパー\みらべる」について商標登録出願をしましたが、4条1項11号に該当するとして拒絶査定を受けました。そこで原告は、拒絶査定不服審判を請求しましたが、本件審判の請求は成り立たないとの審決を受けました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「本願商標は、赤色の横長矩形内に、上段中央部に片仮名で『スーパー』をやや小さく、下段中央部に平仮名で『みらべる』をやや大きく(後者の縦横の長さは前者の縦横の長さの概ね1.6倍ないし1.8倍である。)、いずれも白色の縁取りがされた黒色の太文字で、横書きしたものである。本願商標中、『みらべる』のひらがな部分は、丸文字風に描かれ、柔らく表記されているのに対し、『スーパー』の片仮名部分は、直線的に描かれているが、赤、黒及び白を配色していることから、鮮やかで、明瞭、かつ、全体として、まとまった印象を与えている。本願商標の『スーパー』の文字部分は、『超』、『上の』、『より優れた』、『スーパーマーケットの略称』などの意味が生じる。他方、本願商標の『みらべる』部分は、これに相当する語はない。平仮名で表記されていることから、日本語として近いものとして挙げてみると、『みられる』、『みくらべる』、『ならべる』等の語を連想させることはあったとしても、そのようなことから、何らかの確定的な観念を生じさせるものではない。したがって、本願商標からは、『【みらべる】との名称のスーパーマーケット』との観念が生じる余地がある。また、本願商標から、『スーパーミラベル』の称呼を生じるとともに、場合によっては、『ミラベル』との称呼が生じる余地も排除できない。...引用商標1は、欧文字『MIRABELL』が、大文字で、垂直に正立した書体により、横書きされ、その下段に片仮名『ミラベル』が小さく横書きされたものである。引用商標2は、欧文字『Mirabell』(先頭の M の文字が大文字、その他の文字は小文字)が、筆記体(斜体)により、横書きされたものである(もっとも、先頭の文字は、Mであるか、他の文字[例えば、U]を表記したものであるかについて、その需要者、取引者において判別できるか否かは不明である。)。引用商標3は、欧文字『MIRABEL』が、大文字で、垂直に正立した書体により、横書きされたものである。引用商標4は、欧文字『MIRABELL』が、標準文字で横書きされたものである。上記『MIRABELL』、『Mirabell』及び『MIRABEL』は、別紙各引用商標目録記載の外観を生じ、『ミラベル』の称呼が生じる。引用商標は、欧文字で表記され、これらの文字列に対応した語は、一般には存在せず、取引者、需要者にとって、その意味を認識、理解することはできないから、観念を生じない(なお、引用商標1、2及び4については、後半の『BELL』、『bell』から、『ベル』や『鈴』を連想する余地はあり得る。)。 ...本願商標は、赤系色の横長矩形内に、上段中央部に片仮名で『スーパー』をやや小さく、下段中央部に平仮名で『みらべる』をやや大きく、いずれも白色の縁取りがされた黒色の太文字で、横書きしたものであって、鮮やかで明瞭な配色により、全体として、まとまった外観を呈しているのに対し、各引用商標は、『MIRABELL』、『Mirabell』及び『MIRABEL』であり、本願商標と引用商標とは、その外観において、著しく相違する。本願商標は、『スーパーミラベル』の称呼を生じるとともに、場合によって、『スーパー』ないし『ミラベル』の称呼を生じる余地があり、これに対し、引用商標は、『ミラベル』の称呼を生じることから、本願商標が『スーパー』、『スーパーミラベル』の称呼を生じる場合には、両者の称呼は類似しないというべきであるが、本願商標が『ミラベル』の称呼を生じる場合には、類似することがある。 本願商標が一般的な観念を生じないと解される場合には、引用商標は格別の観念を生じないので、対比することができず、結局、両商標は、類似するとまではいえない。本願商標が、『【みらべる】との名称のスーパーマーケット』との観念が生じる場合があるならば、引用商標は格別の観念を生じないので、両者は、類似しない。また、原告は、各店舗の出入口の上部に、本願商標とほぼ同一の書体と色彩により「スーパーみらべる」の店舗名の表示を掲げるなどして、本願商標を顧客に対する便益の提供役務に使用している実情があり、引用商標と類似する使用態様がされているとの事実は存在しない。以上によれば、本願商標と引用商標とは、『ミラベル』との称呼において類似する場合があり得たとしても、外観において著しく相違し、かつ観念において類似するとはいえず、取引の実情等を考慮しても、本願商標がその指定役務『【飲食料品】、【食肉】、【食用水産物】、【野菜及び果実】、【菓子及びパン】、【牛乳】、【清涼飲料及び果実飲料】、【茶・コーヒー及びココア】、【加工食料品】の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』に使用された場合に、引用商標との間で商品ないし役務の出所に誤認混同を生じさせるおそれはないから、両商標は、類似しない。」として審決を取消しました。
スーパーみらべる事件 知財高裁平成23年12月26日判決
PAG事件 知財高裁平成23年10月24日判決
原告は、「§PAG!\Point AD Game」の図形商標を出願しましたが、「PAG」という文字商標を引用されて、4条1項11号で拒絶査定を受け、審判を請求しましたが、請求は成り立たないとの審決を受けました。原告は、これを不服として本件審決取消訴訟を起こしました。
知財高裁は、「本願商標の外観は、上段の『P』『A』『G』の文字、『!』の符号、足跡状の図形及び下段の『Point AD Game』のすべてが、青色の輪郭線又は塗りつぶされた文字で表記され、全体として、まとまりのある一体的な図形として描かれていること、上段の『PAG』の文字は、下段の『Point AD Game』の頭文字であることが想起されること、足跡状の図形がオレンジ色に塗りつぶされ、文字及び記号に囲まれた中で、生き生きとした印象を与えていること等に照らすならば、これに接した取引者、需要者は、それぞれの構成が相互に深く関連する、一体的な図形であると認識、理解するものと解される。したがって、本願商標において、「PAG」の文字部分のみが、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分と認めることはできず、「PAG」の文字部分のみを本件商標の特徴部分とすることできない。本願商標のうち、文字部分からは、『ピーエージー、ポイントエーデーゲーム』、『ピーエージー、ポイントアドゲーム』、『パグ、ポイントエーデーゲーム』、『パグ、ポイントアドゲーム』、『ピーエージー』、『パグ』などの称呼が生じる余地があり得る。本願商標のうち『PAG』の文字部分は、下段の『Point AD Game』の頭文字であると連想させるが、必ずしも格別の観念は生じることはない。本願商標のうち、「Point AD Game」の文字部分からは、同文字は、必ずしも成熟した語とまではいえないことから、確定的な観念が生じるか否かはさておき、何らかの点数や広告等に関連するゲームないしゲーム機を連想させる余地がある。本願商標のうち、図形部分からは、動物の足跡と連想させる余地がある。 ...引用商標は、別紙引用商標目録記載のとおり、『PAG』の欧文字を横書きした外観を有し、『ピーエージー』、『パグ』などの称呼が生じる余地があるものの、格別の観念は生じない。...本願商標は、上記のとおり、その外観は、『P』『A』『G』の文字、『!』の符号、足跡状の図形及び下段の『Point AD Game』のすべてが、青色の輪郭線又は塗りつぶされた文字で表記され、全体として、まとまりのある一体的な図形として描かれていること、上段の『PAG』の欧文字及び『!』の符号は、袋文字風にデザインされて横書きされ、このうち『P』の文字は、直線のみから構成され、欧文字『A』を左斜めに倒したような独特の字体が用いられていること、上段の『PAG』の文字は、下段の『Point AD Game』の頭文字であることが想起されること、足跡状の図形がオレンジ色に塗りつぶされ、アクセントをつけていること等の特徴があるのに対し、引用商標は、『PAG』の欧文字を横書きしたものであり、両商標は、外観において、相違する。本願商標は、『ピーエージー、ポイントエーデーゲーム』、『ピーエージー、ポイントアドゲーム』、『パグ、ポイントエーデーゲーム』、『パグ、ポイントアドゲーム』、『ピーエージー』などの称呼が生じ得るのに対して、引用商標は、『ピーエージ』、『パグ』の称呼を生じる余地がある。本願商標は、さまざまな称呼が生じる余地があること、引用商標は、何らの観念も生じず、確定的な称呼が生じるとはいいがたいことに照らすと、両商標は、称呼において、類似するとはいえない。本願商標は、『Point AD Game』の文字部分からは、何らかの点数や広告等に関連するゲームないしゲーム機を連想させる余地があり、図形部分からは、動物の足跡と連想させる余地があるのに対し、引用商標は、何らの観念を生じないから、両商標は、観念において、類似するとはいえない。以上によれば、本願商標と引用商標とは外観において相違し、観念及び称呼が類似するとまではいえず、取引の実情等を考慮しても、本願商標がその指定商品ないし指定役務に使用された場合に、引用商標との間で商品ないし役務の出所に誤認混同を生じさせるおそれはないから、両商標は、類似しない。」として審決を取消しました。
GENESIS事件 知財高裁平成23年11月30日判決
原告は、第9類「電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品」を指定商品とする「GENESIS」の欧文字を横書きしてなる登録第1689805号の2商標(以下「本件商標」という)の商標権者です。
被告は特許庁に対し商標法50条1項の不使用取消審判により、本件商標の指定商品中、第9類全指定商品についての登録を取り消すことを求めました。特許庁は、「『GENESIS』の標章は、ファクシミリに搭載する画像処理技術の説明文中及びその欄外に大きく表示されてはいるが、『ファクシミリ』を識別するための表示とはいえず、当該ファクシミリに搭載された機能の一である画像処理技術の名称としての使用であるから、原告の主張に係る『プリンター機能(コピー機能)搭載のファクシミリ』についての使用とはいえない」として、被告の請求を認め、商標登録を取り消しました。
原告はこれを不服として、本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「『GENESIS』の表示は、原告の製造、販売に係る『ファクシミリ』に関する説明用のカタログやウエブサイト等に記載されていること、『GENESIS』の表示の態様は、文章の各文字よりも、大きく、太く、まとまりのある、特徴的な字体により、独立して、目立つように記載されていること、すべて同一の字体が使用されていること、ウエブサイトの『GENESIS』の項目には、『対応機種:キヤノフアクスL380S、L230、L2800』と表記されて、ファクシミリとの関連性が明確に示されていること等に照らすならば、カタログやウエブサイト等の『GENESIS』の表記に接した需要者、取引者は、『GENESIS』の表記を、原告の製造、販売に係る『ファクシミリ』に関する標章であると認識、理解するものといえる。確かに、前記商品カタログ等の説明文には、『GENESIS』について、原告の独自に開発した画像処理技術を指す旨の記載がある。しかし、原告の製造、販売に係るファクシミリに用いられている『原告の独自に開発した画像処理技術』が、どのような技術を指すかについての詳細の説明は格別されていないこと、前記商品カタログ等は、画像処理技術の販売等に係る配布物等ではなく、ファクシミリの販売等に係る配布物等であることに照らすならば、そのような説明は、原告の製造、販売に係る『ファクシミリ』が、いかに性能が高く、品質等が優位性を有しているかを強調するために用いられた、ごく一般的な広告手法であるといえる。したがって、そのような説明がされているからといって、取引者、需要者が、『GENESIS』の標章について、原告の開発した画像処理技術について使用されていると理解、認識すると解することは困難であり、むしろ、原告の製造、販売する『ファクシミリ』の広告などに、同商品の出所を示す趣旨で使用されているものと理解、認識すると解するのが自然であり、合理的である。」として審決を取消しました。
ジョイントボックス事件 知財高裁平成25年6月27日判決
原告は、ジョイントボックスの形態について立体商標として商標登録出願しましたが、拒絶査定を受けたので、これを不服として拒絶査定不服審判を請求しましたが、請求を不成立とする審決を受けました。原告は審決には【1】3条1項3号に係る判断と【2】3条2項に係る判断の誤りがあるとして本件審決取消訴訟を提起しました。
まず3条1項3号該当性についてですが、知財高裁は、「他のジョイントボックスの形状等を見ても、電気配線の結合部分を覆うためにボックス部分の形状が円筒形のものが多く、より詳細に観察した際には、上部に向かってやや広がっていき、最上端部には縁部が設けられているものが多数存在し、色は透明なものがある上に、本体のカバー部分内部は、結線束を入れるために空洞となっており、本体の上面縁部には、本体を造営材(固定できる部材)に固定するための固定孔が設けられ、本体下方には、汚水の排水用の突起部が存在することは、ジョイントボックスにとって一般的に採用された極めてありふれた形状であるといえる。開口部の弁についても、使用商品にのみ取り付けられているわけではなく、他にもワンタッチでかぶせるジョイントボックスが実際に存在するから、本願商標の弁自体は機能に資する目的のための形状であるといってよい。弁自体は、電気配線の結束部分にかぶせることによって配線の結束部分が弁体を通過し、弁体が戻ろうとする働きによりジョイントボックスが固定されるという、正に機能に資するための形状にほかならないのであって、当該形状は商品の機能向上の観点から選択されたものであり、機能について特許を受けるのは別として、自他商品を識別するための標識としては認識し得ないものというべきである。」として3条1項3号に該当するとした特許庁の判断については誤りはないとしました。
3条2項についても、原告の証拠からでは原告の市場シェア等が不明確であり、原告商標が特別顕著性を有するとは言えないとして3条2項に該当しないとの判断を示しました。
盛光事件 最高裁昭和58年2月17日判決
本件は、無効審判の除斥期間経過後に無効理由を追加することができるかどうかについて判断された最高裁判決です。商標権が過誤登録された場合の救済措置として、商標法46条において無効審判の制度が設けられていますが、そのうちの一部には除斥期間が設けらています。(47条)本判決においては、除斥期間の経過前に無効審判の請求は行われたが、審判に係属中に除斥期間を迎えた場合において無効理由を追加することは許されるのかということについて争われた事件です。
最高裁は、「旧法一六条一項及び新法四六条は、それぞれ商標登録の無効理由を列挙して定め、また、旧法二四条が準用する旧特許法(大正一〇年法律第九六号)一一七条及び新法五六条が準用する現行の特許法(昭和三四年法律第一二一号)一六七条は、いずれも無効の請求を排斥した確定審決の登録があつたときは、同一事実、同一証拠に基づいて無効審判を請求することができない旨を定めているのであつて、これらの規定によれば、新法と旧法のいずれに基づく商標登録の無効審判請求であつても、各無効理由ごとに一個の請求があるものと解すべきであり、無効審判請求後に新たな無効理由を追加主張することは、新たな無効審判の請求の追加をすることになるものと解するのが相当である。したがつて、新法、旧法のいずれにおいても、除斥期間経過後は、無効審判手続において新たな無効理由を追加主張することは許されないものといわなければならない。」との判断を示しました。
湯ーとぴあ事件 東京地裁平成27年2月20日判決
原告は、役務「入浴施設の提供」について「ラドン健康パレス\§湯~とぴあ」の商標権を持っており、「§湯~トピアかんなみ\IZU KANNAMI SPA」の標章を使用する被告を訴えました。尚、被告は「§湯~トピアかんなみ\IZU KANNAMI SPA」について、「飲食物の提供、温泉施設の提供」を指定役務とする商標権を持っています。
東京地裁は、「原告商標のうち強く支配的な印象を与える部分である『湯~とぴあ』と、被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分である『湯~トピア』とを対比すると、原告商標の『湯~とぴあ』の部分から、『ユートピア』の称呼及び『理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じ、被告標章の『湯~トピア』の部分からも、『ユートピア』の称呼及び『理想的で快適な入浴施設』という程度の観念が生じることが認められるから、原告商標と被告標章とは、強く支配的な印象を与える部分において同一の称呼及び観念を有するものということができ、また、外観においても、いずれも『湯~とぴあ』ないし『湯~トピア』の文字を含み、平仮名か片仮名かの違いがあるにすぎず、実質的に同じ語をその構成に含んでいるということができる。一方で、原告商標と被告標章とは、その文字の字体が異なるほか、原告商標には、『湯~とぴあ』の文字のほかに『ラドン健康パレス』との文字があり、また、被告標章には、『湯~トピア』の文字のほか、『かんなみ』の文字、『IZU KANNAMI』及び『SPA』の欧文字並びに花の図形が含まれているが、...それらの構成部分は、原告商標又は被告標章において、『湯~とぴあ』ないし『湯~トピア』の部分と比べて目立つ部分であるとはいえず、出所識別標識としての機能を有しているとは認められないので、それらの相違は類否判断に影響を与えるものではない。そうすると、原告商標及び被告標章からは同一の称呼及び観念が生じること、その外観上も上記のとおり類似性を有する...原告商標と被告標章が、入浴施設の提供という同一の役務に使用された場合には、その需要者において、その役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めるのが相当というべきである。」として、被告標章の使用は商標法37条1号の侵害行為に該当すると判断しました。
遠山の金さん事件 知財高裁平成26年3月26日判決
原告は、被告の有する本件商標「遠山の金さん」(標準文字)は、4条1項7号に該当するとして無効審判を請求しましたが、請求は不成立となりました。原告は審決の取消をもとめて本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「『遠山の金さん』は、あくまでも『遠山景元』をモデルとした人物を主人公としたテレビ番組のタイトル名や主人公名と認められ、モデルが存在する点において必ずしも架空の人物ということはできないとしても、歴史上実在した人物そのものではなく、その限度で審決の認定判断に誤りはない。...被告は、『遠山の金さん』という名称をタイトル名ないし主人公名として初めて使用した者とはいえないが、昭和25年以降、『遠山の金さん』と呼ばれる主人公が登場する映画を多数作成し、昭和45年以降は、同名のテレビ番組を長期間にわたって多数制作してきたものと認められ、『遠山の金さん』の呼称やイメージを一般大衆に広めることに一定の寄与をした立場にあるといえる。したがって、被告は、遠山景元と血縁関係を有する者の関連する会社や同人の生育地と地縁を有する団体に当たるものではないが、本件商標の登録出願を剽窃的に行ったものということはできない。...『遠山の金さん』がテレビ番組のタイトル名ないし主人公名にすぎないことからすると、本件指定商品における本件商標の使用によって、『遠山景元』という歴史上の人物の名前を独占できるかという公益性のある社会的問題が生じる余地はなく、本件商標によって失われる公益は想定し難い。...被告が『遠山の金さん』シリーズの映画やテレビ番組の制作や配給をしてきたのは上記認定事実のとおりであって、『遠山の金さん』という語を商標登録出願することにより、形成してきたその信用や顧客吸引力を保護しようとすること自体は、商標制度の本質からして非難できるものでもない。...被告が本件商標を登録したことによる法的、社会的影響については、公益的事業において歴史上実在した遠山景元を紹介するに当たって、通称として『遠山の金さん』の表現が併記されることがあるとしても、それは本件指定商品の範囲外で、類似する商品・役務に当たるともいえないから、公益的事業自体に支障が生じるとは考えにくい。」として本件商標は4条1項7号に該当しないとする特許庁の判断に誤りはないとしました。
Chupa Chups事件 知財高裁平成24年2月14日判決
本件は、「Chupa Chups」の商標権を有する控訴人(一審原告)がインターネットショッピングモールを運営する被控訴人(一審被告)を商標権侵害及び不正競争防止法違反で差止請求、損害賠償請求をしたというものです。原判決はでは、被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)の主体は、当該出店ページの出店者であって、一審被告はその主体ではない等として、原告の請求を棄却しています。
知財高裁は、「本件における被告サイトのように、ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し、これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において、上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは、商標権者は、直接に上記展示を行っている出店者に対し、商標権侵害を理由に、ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが、そのほかに、ウェブページの運営者が、単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって、その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。」との判断基準を示し、本件については、被控訴人は商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内にこれを是正していると認められるので、被控訴人が本件商標権を違法に侵害したとまでいうことはできないと判断しました。
オタク婚活事件 知財高裁平成26年5月14日判決
原告は、指定役務を「第45類:結婚又は交際を希望する者への異性の紹介、インターネット上でのウェブサイトを利用した異性の紹介及びこれに関する情報の提供、インターネットを利用した結婚に必要な情報の提供」とする商標登録第5544516号「オタク婚活(標準文字)」の商標権(以下、「本件商標」とします。)を持っていましたが、訴外Aにより異議申立が行われ、商標法3条1項3号を理由として取消決定を受けました。
原告はこれを不服として、本件訴訟を提起しました。
知財高裁は、「本件商標は、その指定役務に使用されたときは、『オタク』と称される人向けの結婚するための活動を支援する異性の紹介、情報の提供などといった役務の質(内容)を表示するものとして、取引者、需要者によって一般に認識されるものであって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったものと認められるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、自他役務識別力を欠くものというべきである。」として3条1項3号に該当すると判断しました。原告は、本件商標は3条2項に該当するとの主張もしており、広告チラシなどを多数証拠として提出していますが、知財高裁は、「原告が『アエルラ』の名称で『オタク婚活パーティー』を事業として行っていることを示すものにとどまるものであって、『オタク婚活』の語が原告の事業の出所を示すものとして広く知られていることをうかがわせるものではない。」との判断を示し、3条2項該当性についても否定しています。
ECOLIFE事件 知財高裁平成25年11月14日判決
原告は、平成24年1月22日「ECOLIFE」の欧文字を標準文字で表してなる商標(以下「本願商標」という。)について、指定役務を第36類「エネルギー消費量から炭酸ガス排出量を自動計算して表示することが可能な建物の管理」等について商標登録出願を行いましたが、商標法3条1項6号に該当拒絶査定を受け、不服審判請求を行いましたが、請求不成立となりました。原告はこれを不服として本件訴訟を提起しました。
知財高裁は、「本願商標は、『環境に優しい生活』を表す広く一般的・日常的に使用される成語として認識される『エコライフ』と称呼される『ECOLIFE』の欧文字を標準文字で表してなるものであり、『エコライフ』の語は、本件指定役務と関連の深い建物の建築、管理又は売買等の分野においては、『太陽光発電パネルや断熱性能の高い建築や二酸化炭素(CO2)排出量の削減等、環境に配慮した建物』といった特定の意味合いを表すものとして一般的に使用されていることが認められるから、本願商標を本件指定役務に使用する場合には、これに接する取引者、需要者に、上記意味合いを有する『エコライフ』を目的とする建物の管理、貸借の代理又は媒介、貸与、売買、売買の代理又は媒介、鑑定評価、情報の提供に係る役務であることを表したものと認識させるにすぎず、自他役務の識別標識としての機能を有しないものというべきである。」として原告の請求を棄却しました。