RUNE事件 知財高裁平成27年6月11日判決

本件は、無効2012-890095号事件に対する審決取消訴訟です。被告は、商標登録第5426917号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者です。原告は、本件商標が原告の第4443540号商標「Rene」(以下「引用商標」という。)と類似しているとして、商標法4条1項11号に該当するとして無効審判を請求しましたが、特許庁は本件審判の請求は成り立たないとの審決をしました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「本件商標と引用商標とは、いずれも『ルネ』の称呼を生じる場合がある点では共通である。また、引用商標から『ルネ』の称呼を生じる場合、前記3(3)記載のとおり、引用商標から『ルネなる男の名』との観念が生じるといえるが、本件商標からは、前記2(3)記載のとおり、必ずしも特段の観念が生じるとはいえないから、本件商標と引用商標とは、観念において類似するとは認められない。これに対し、外観については、本件商標と引用商標とが、ともに欧文字4文字を横一行に書してなり、語頭が『R』(大文字)から始まる点で共通するが、これに続く3文字は、本件商標では『UNE』であるのに対し、引用商標では『ené』であって、本件商標が全て大文字で表記されているのに対し、引用商標では全て小文字で表記され、かつ、末尾の『e』の上にはアクセント記号が付されている点で相違しており、本件商標と引用商標とは、外観上明確に相違するといえる。そして、本件商標と引用商標とで共通する指定商品である『布製身の回り品』、『被服』及び『履物』の取引においては、取引者、需要者は、店頭販売、通信販売及びインターネットを介した販売において、商品の外観を見て購入するのが通常であり、その際に、商品、値札、カタログ、商品情報等に付された商標の外観や製造販売元を見て商品の出所について相応の注意を払って購入することが多いと考えられ、取引者、需要者が商標の称呼のみをもって商品の出所を識別して商品を購入するとは考えにくい。以上検討したところによれば、本件商標と引用商標とは、『ルネ』との称呼が同一である場合が生ずるものの、外観上明確に相違するものであること、観念において類似するとはいえないこと、前記(2)のような取引の実情を踏まえると、取引者、需要者が商品の出所を誤認混同するおそれがあるとはいえない。したがって、本件商標が引用商標と類似する商標であるとは認められず、これと同旨の本件審決の判断に誤りはないというべきである。」として原告の請求を棄却しました。

納棺士事件 知財高裁平成27年9月16日判決

原告は、第41、45類の「納棺、納棺に関する相談、遺体への死化粧の施術、身の上相談、祭壇の貸与、墓地又は納骨堂の提供、墓地又は納骨堂に関する相談、納骨堂の管理、遺体の入浴・洗浄」等を指定役務とする、商標「納棺士」(標準文字)について商標登録出願を行いましたが、商標法3条1項3号に該当するといて拒絶査定を受けました。原告はこれを不服として、拒絶査定不服審判を請求しました(不服2014-20782号)が、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を起こしました。
 知財高裁は、「本願商標は、『納棺士』の漢字3文字を標準文字で表してなるものであり、本願商標から『ノウカンシ』の称呼が生じる。広辞苑第六版(平成20年1月11日発行。乙1及び2)によれば、本願商標を構成する『納棺』の語は、『死体を棺に納めること。』を意味し、『士』の語は、『兵卒の指揮をつかさどる人。また、軍人。兵。』、『近世封建社会の身分の一つ。もののふ。さむらい。』、『学徳を修めたりっぱな男子。また、男子の敬称。』、『一定の資格・役割をもった者。』などを意味することが認められる。して、『士』の語が『一定の資格・役割をもった者。』という意味で用いられる場合には、『弁護士、弁理士、税理士、栄養士、消防士、航海士、機関士』などのように、その業務や役割などを表す語に続けて付されるのが通常であることからすると、『納棺』、すなわち『死体を棺に納めること。』という業務や役割を表す語に続けて付された『士』の語についても、『一定の資格・役割をもった者。』という意味で用いられているものと自然に理解することができる。したがって、本願商標は、その言語構成に照らし、『死者を棺に納める資格ないし役割をもった者』との意味合いを一般に想起させるものということができる。次に、証拠(甲9ないし40、乙3ないし19)及び弁論の全趣旨によれば、【1】『納棺』の際には、死者の身体を洗い清め、死装束を着せ、髪型を整え、死化粧を施した上で遺体を棺に納める儀式が一般的に執り行われていること、【2】この儀式は、元来は遺族や親族によって執り行われていたが、必要な知識や技能を持つ者が、専業的に、葬儀業者の従業員として、あるいは葬儀業者から請け負って、遺族等とともに執り行われるのが通常であること、【3】葬儀業者等のウェブサイト(乙3ないし12、17ないし19)及び新聞記事...には、この儀式を専業的に執り行う者を『納棺士』と表示している例がみられることが認められる。以上によれば、本件審決日当時、本願商標は、その言語構成に照らし、『死者を棺に納める資格ないし役割をもった者』との意味合いを一般に想起させるものであり、葬儀業者、遺族等によって納棺の際に執り行われる儀式を専業的に提供する者を表す語として認識されるものであったものと認められる。そうすると、本願商標は、本件役務である『納棺、納棺に関する相談、遺体への死化粧の施術』に使用されたときは、その役務が『死者を棺に納める資格ないし役割をもった者』によって提供されるという役務の質を表示するものとして、取引者、需要者である葬儀業者、遺族等によって一般に認識されるものであり、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったものと認められるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、自他役務識別力を欠くものというべきである。加えて、本願商標は、標準文字で構成されているから、『納棺士』の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。」として本願商標が3条1項3号に該当するとした特許庁の判断に誤りはないとして、原告の請求を棄却しました。

湯灌士事件 知財高裁平成27年9月16日判決

原告は、指定役務を第41、45類の「遺体の入浴・洗浄、湯灌、湯灌に関する相談、身の上相談」等とする商標「湯灌士」について商標登録出願を行いましたが、3条1項3号に該当するとして拒絶査定を受けました。 原告は、拒絶査定不服審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を受けましたので、これを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、「本願商標は、『湯灌士』の漢字3文字を標準文字で表してなるものであり、本願商標から『ユカンシ』の称呼が生じる。広辞苑第六版(平成20年1月11日発行。乙1及び2)によれば、本願商標を構成する『湯灌』の語は、『納棺する前に死体を清めること。湯洗い。』を意味し、『士』の語は、『兵卒の指揮をつかさどる人。また、軍人。兵。』、『近世封建社会の身分の一つ。もののふ。さむらい。』、『学徳を修めたりっぱな男子。また、男子の敬称。』、『一定の資格・役割をもった者。』などを意味することが認められる。そして、『士』の語が『一定の資格・役割をもった者。』という意味で用いられる場合には、『弁護士、弁理士、税理士、栄養士、消防士、航海士、機関士』などのように、その業務や役割などを表す語に続けて付されるのが通常であることからすると、『湯灌』、すなわち『納棺する前に死体を清めること。』という業務や役割を表す語に続けて付された『士』の語についても、『一定の資格・役割をもった者。』という意味で用いられているものと自然に理解することができる。したがって、本願商標は、その言語構成に照らし、『納棺する前に死体を清める資格ないし役割をもった者』との意味合いを一般に想起させるものということができる。次に、証拠(甲9ないし20、24ないし28、乙3ないし17)及び弁論の全趣旨によれば、【1】死体を棺に納める『納棺』の前には、死者の身体を洗い清め、死装束を着せ、髪型を整え、死化粧を施すなどの儀式が一般的に執り行われていること、【2】この儀式は、元来は遺族や親族によって執り行われていたが、必要な知識や技能を持つ者が、専業的に、葬儀業者の従業員として、あるいは葬儀業者から請け負って、遺族等とともに執り行うのが通常であること、【3】葬儀業者等のウェブサイト(乙3ないし9、13ないし17)及び新聞記事...には、この儀式を専業的に執り行う者を『湯灌士』と表示している例がみられることが認められる。以上によれば、本件審決日当時、本願商標は、その言語構成に照らし、『納棺する前に死体を清める資格ないし役割をもった者』との意味合いを一般に想起させるものであり、葬儀業者、遺族等によって納棺する前に死者の身体を洗い清めるなどの儀式を専業的に提供する者を表す語として認識されるものであったものと認められる。そうすると、本願商標は、本件役務である『湯灌、湯灌に関する相談、遺体の入浴・洗浄』に使用されたときは、その役務が『納棺する前に死体を清める資格ないし役割をもった者」によって提供されるという役務の質を表示するものとして、取引者、需要者である葬儀業者、遺族等によって一般に認識されるものであり、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったものと認められるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、自他役務識別力を欠くものというべきである。加えて、本願商標は、標準文字で構成されているから、『湯灌士』の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するものと認められる。」として原告の請求を棄却しました。

BOSS事件 大阪地裁昭和62年8月26日判決

原告は、指定商品を「被服、布製身回品、寝具類」とする商標「BOSS」の商標権者です。  被告は、本件商標と同一の商標を付したTシヤツ、トレーナー、ジヤンパー等の衣類を訴外A社に製造させ、被告製造の楽器のノベルティとして無償で譲渡してきました。  原告は、被告の行為は原告の商標権を侵害するものであるとして、損害賠償請求等を行いました。 大阪地裁は、「被告は電子楽器等の製造、販売を業とする会社であるが、その製造、販売する電子楽器等に別紙商標目録記載の商標(以下『BOSS商標』という。)を使用しているところ、昭和五四年頃から電子楽器類の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として、Tシヤツ、トレーナー及びジヤンパーにBOSS商標を附したものを...被告製造の電子楽器の購入者に直接又は販売店を通じて無償で配付してきた...訴外ローランド株式会社を出願人として、指定商品第一一類、電気通信機械器具、その他本類に属する商品並びに同第二四類、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)、レコード、これらの部品及び附属品につき『BOSS』の商標及び大きい『●』のマークの下に『BOSS』の横書きの文字を配して成る商標等が公告になつていることが認められ、右事実と弁論の全趣旨によれば、被告は右ローランド株式会社からBOSS商標の使用許諾を受けているものと推認される。...商標法上商標は商品の標識であるが(商標法二条一項参照)、ここにいう商品とは商品それ自体を指し商品の包装や商品に関する広告等は含まない(同法二条三項参照)。商標権者は登録商標を使用する権利を専有し、これを侵害する者に対し差止請求権及び損害賠償請求権を有するが、それは商品についてである(同法二五条 参照)。したがつて、商標権者以外の者が正当な事由なくしてある物品に登録商標又は類似商標を使用している場合に、それが商標権の侵害行為となるか否かは、その物品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であるか否かに関わり、もしその物品が登録商標の指定商品と同一又は類似ではない商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎない場合には、商標権の侵害行為とはならない。そして、ある物品が それ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎないか否かは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによつて判定すべきものである。これを本件についてみるに、被告は、前記のとおり、BOSS商標をその製造、販売する電子楽器の商標として使用しているものであり、前記BOSS商標を附したTシヤツ等は右楽器に比すれば格段に低価格のものを右楽器の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として被告の楽器購入者に限り一定の条件で無償配付をしているにすぎず、右Tシヤツ等それ自体を取引の目的としているものではないことが明らかである。また、前記認定の配付方法にかんがみれば、右Tシヤツ等はこれを入手する者が限定されており、将来市場で流通する蓋然性も認められない。そうだとすると、右Tシヤツ等は、それ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく、商品たる電子楽器の単なる広告媒体にすぎないものと認めるのが相当であるところ、本件商標の指定商品が第一七類、被服、布製身回品、寝具類であり、電子楽器が右指定商品又はこれに類似する商品といえないことは明らかであるから、被告の前記行為は原告の本件商標権を侵害するものとはいえない。」として原告の請求を棄却しました。

ネットワークおまかせサポート事件 知財高裁平成26年8月6日判決

原告は、指定役務を第37類「事務用機械器具の修理又は保守、電子応用機械器具の修理又は保守、電話機械器具の修理又は保守、ラジオ受信機又はテレビジョン受信機の修理、電気通信機械器具(「電話機械器具・ラジオ受信機及びテレビジョン受信機」を除く。)の修理又は保守、民生用電気機械器具の修理又は保守、電動機の修理又は保守、配電用機械器具の修理又は保守、発電機の修理又は保守」(補正後のもの)として商標「ネットワークおまかせサポート」(以下、「商標」とする。)について、商標登録出願を行いましたが、商標法3条1項3号に該当するとして拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下、「本件審決」とする。)を受けました。原告はこれを不服として、本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「本願商標は、『ネットワークおまかせサポート』の文字を、赤色の文字を白色で縁取りした太文字体で、これに陰影を付してなる商標であり、『ネットワーク』の片仮名6字と、『おまかせ』の平仮名4字と、『サポート』の片仮名4字とを結合して一連表記した結合商標である。...『コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守』の役務と関連の深いコンピューターやモバイル等の電子応用機械器具・電気通信機械器具などを取り扱う業界分野においては、本件審決時(平成26年1月20日)までに、インターネットのホームページにおいて、本願商標を構成する文字のうち、『ネットワーク』と『サポート』の文字からなる『ネットワークサポート』の語について、コンピューターネットワークシステムの障害箇所や問題点を解決するサポートサービス、コンピューターネットワークの構築やトラブルなど情報システムの幅広い問題に対応するサポートサービス等の意味合いを有するものとして用いられていることが認められる。...本願商標を構成する文字のうち、『おまかせ』と『サポート』の文字からなる『おまかせサポート』の語については、顧客のコンピューターネットワーク接続等を遠隔(リモート)サポートや出張サポートにより解決するサポートサービス、サポートスタッフが顧客のパソコンを直接操作して問題解決するインターネットを通した遠隔サポートサービス(乙14)、操作方法の問い合わせ対応、障害発生の原因究明・対処、その他付随する相談等のサービス、コンピューターネットワークにおける顧客の困りごとにワンストップで対応するサービスなど、コンピューターネットワークに関する相談や接続設定の代行など、顧客が自分で判断・選択せず、他人にまかせてサポートしてもらうサービスの意味合いを有するものとして用いられていることが認められる。(本願商標の)デザインは、ごく普通に用いられる一般的な表現方法であって、特殊な態様で表示されているものというほどの特徴はない。...したがって、本願商標の態様は、普通に用いられる形態であるということができる。認定した事実によれば、本願商標を構成する『ネットワークおまかせサポート』の語は、本件審決当時、『ワークに関する相談や接続設定の代行など、顧客が自分で判断・選択せず、他人にまかせてサポートしてもらうサービス』程の意味合いを有する語として、本件指定役務のうち『コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守』に係る事業の取引者、需要者によって一般に認識されるものであったことが認められる。したがって、本件審決当時、本願商標は、本件指定役務のうち『コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守』の役務に使用されたときは、『コンピューターネットワークに関する相談や接続設定の代行など、顧客が自分で判断・選択せず、他人にまかせてサポートしてもらうサービス』といった役務の質(内容)を表示するものとして、取引者、需要者によって一般に認識されるものであって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったと認められるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、自他役務の識別力を欠くものというべきである。そして、本願商標は、...『ネットワークおまかせサポート』の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。以上によれば、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するものと認められる。」として、本件審決は相当であって、原告主張の取消事由は理由がないとして原告の請求を棄却しました。

RAGGAZZA事件 知財高裁平成25年9月30日判決

被告は、第25類「被服、履物」を指定商品とする登録第5170958号「RAGGAZZA」(標準文字)の商標権者です。原告は、本件商標について特許庁に対して無効審判を請求(無効2012-890063号事件)しましたが、審判請求は成り立たない旨の審決がなされました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
本件訴訟の争点について知財高裁は以下のように判断しました。
争点【1】(商標法第3条第1項第6号該当性についての判断の誤り)について知財高裁は、「本件商標『RAGGAZZA』は、特定の意味を有しない語であるから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標に該当することはない。また、本件商標『RAGGAZZA』は、イタリア語『RAGAZZA』に近似した文字から構成されることから、本件商標から、『RAGAZZA』の文字を想起させることがあり得たとしても、本件証拠によれば、そもそも『RAGAZZA』の意味を認識、理解できる需要者は、多いとは認められない。さらに、仮に、本件商標から、イタリア語『RAGAZZA』の意味である『少女、(未婚の)若い女性、娘、女の子、恋人、彼女、子供』を想起する需要者がいたとしても、それらの意味と本件商標の指定商品との関係を考慮すると、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であると判断することもできない。」として、本件商標が商標法3条1項6号に該当するものではないとした特許庁の判断は妥当であるとしました。
争点【2】(商標法4項1項16号該当性についての判断の誤り及び商標法4条1項7号該当性についての判断の誤り)について知財高裁は、「本件商標は、特定の意味を有することはなく、近似するイタリア語『RAGAZZA』についても、需要者にその意味が認識、理解されていると認めるに足りる証拠はないから、本件商標に接した需要者は、本件商標が商品の品質を表すものとして、認識するとは認められない。本件商標はイタリア語『RAGAZZA』を想起させるものではないから、本件商標の独占を認めたとしても、無用な混乱を生じさせ、国際的な商品流通秩序を乱すとも認められない。」として本件商標が商標法4条1項16号にも、同7号にも該当するものでないとした審決の判断に誤りはないとしました。
争点【3】(商標法第3条第1項第柱書についての審理判断の逸脱)について知財高裁は、「無効審判請求の理由として商標法3条1項柱書を追加することは、請求の理由の要旨を変更するものであるから、商標法56条1項の準用する特許法131条の2第1項の規定により、これが当然に認められるものではない。また、これを裁量で審理しなかったことが、裁量権の逸脱であると認めるに足りる証拠は何らない。」として、原告の主張は採用できないとしました。

醗酵玄米菜食ギャバ事件 知財高裁平成27年2月12日判決

被告は、指定商品を第5類「玄米又は米ぬかと野菜・大麦若葉又はクロレラを主原料とするサプリメント、その他のサプリメント」とする第5582270号「醗酵玄米菜食ギャバ(標準文字)」(以下、「本件商標」とする)の商標権者です。原告は、本件商標は、指定商品を30類「米糠と野菜を原材料とする粉末状の加工食品」とする第4007111号「玄米菜食」(以下、「引用商標」とする)と類似するので商標法4条1項11号に該当するとして無効審判を請求しましたが、特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたので、原告はこれを不服として本件訴訟を提起しました。
本件訴訟の争点は、本件商標から「玄米菜食」部分が要部として分離抽出されるかどうかです。
知財高裁は、「『玄米菜食』は、『玄米を主食、野菜等を副食とする食事法、健康法」を意味する既成語であると認められ(この点について当事者間に争いはない。)、長寿食、自然食として知られるマクロビオテックス(macrobiotics)に基づく食事法に従った食生活をすることをいうものと認められ、一定程度、一般に知られた語であるといえる。しかしながら、本件商標には、まず語頭に『醗酵』との文字があり、これが『玄米』と強く結び付いているにもかかわらず、この『醗酵』を『玄米』から切り離して『菜食』に結び付けた上、9文字ある本件商標の中央の4文字のみを分離抽出することは、著しく不自然な解釈といえる。そして、『玄米菜食』が、原告の出所を示す商標として周知又は著名なものであることを認めるに足りる証拠もない。」として本件商標から、「玄米菜食」を要部として分離抽出して観察することはできないとしました。

SHIPS事件 東京地裁平成26年11月14日判決

原告は、第24類「織物、布製身の回り品、かや、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布、織物製いすカバー、織物製壁掛け、カーテン、テーブル掛け、どん帳、織物製テーブルナプキン、ふきん、シャワーカーテン、のぼり及び旗(紙製のものを除く。)、織物製トイレットシートカバー」他を指定商品とする第4862594号「SHIPS」(以下、「本件商標」とする)の商標権者です。被告は、「SHIPS」の文字列で構成される標章(以下、「被告標章」とする)を被告商品に付して販売しています。
原告は、被告の行為は原告の商標権を侵害するものであるとして本件訴訟を提起しました。本件訴訟の争点は、「被告標章の使用が商標的使用に当たるか否か」です。
東京地裁は、「昭和50年に設立された原告は、昭和52年に『SHIPS』の名称の店舗をオープンさせ、その後、いわゆるセレクトショップとして、様々なブランドの商品を独自のコンセプトに基づいて直接買い付け、また、『SHIPS』のブランド名の自社商品を開発して、紳士服、婦人服のほか、ネクタイ、ハンカチ、靴下、バッグ、財布等の各種服飾品などの販売を行っていること、原告は、全国に、『SHIPS』又はこれを含む名称の店舗を、昭和60年当時9店、平成3年当時26店、本件訴え提起当時約58店を展開しており、平成25年2月期の原告の売上高が215億4400万円に上ること...これらの事実によれば、本件商標は、服飾品のブランドとして広く一般消費者に認識されており、強い識別力を持つ商標であると認められる。...被告商品においては、30cm四方のデザインの一単位に一つの被告標章が配されているところ、証拠〈略〉によれば、被告標章は、そのデザインの中において、他の文字列から分離して表記されており、その『SHIPS』の文字列は、全て大文字で、かつ、『ANCHOR』の文字列とともに、他の文字列よりもやや大きい文字サイズであり、さらに、他の文字列がいずれも文又は句を構成しているのに対して、この『SHIPS』及び『ANCHOR』はそれぞれ一単語のみで独立して用いられていることが認められる。そして、『ANCHOR』の文字列は、それが意味するところの「錨」のマークの上に配置され、同マークの下の『Anchors can either be temporary or permanent.』の英文を含めて、一つの固まりとして一体的に表示されているのに対して、被告標章は、それが意味するところの『船』ではなく、『錨』のマークの下に配置され、同マークの上の『SINCE1981』の文字列を含めて、一つの固まりとして一体的に表示されている。このような被告商品における被告標章の配置、文字の大きさ及び表示態様からすれば、被告標章は、被告商品のデザインの中で、十分に独立して認識可能な標章として表示されているということができる。このことに加えて、被告標章が、一般に企業や団体の創業年又はブランドの設立年などを表す際に用いられる『SINCE』の表記を伴い、上記のとおり『SINCE1981』の文字列と一体的に表示されていること、及び、前記(1)のとおり、『SHIPS』の文字列からなる本件商標が服飾品のブランドとして広く一般消費者に認識され強い識別力を持つ商標であることを総合すると、被告商品において被告標章は、その需要者に対して、商品の自他を識別し、出所を表示する態様で用いられていると認めることができる。」として被告標章は、被告商品において、商標として使用されていると認めるのが相当であると判断しました。

ジャンポールゴルチェ香水瓶事件 知財高裁平成23年4月21日判決

原告は香水瓶の形状について、指定商品を第3類「美容製品、せっけん、香料類及び香水類、化粧品。」とする立体商標登録出願(以下、「本願商標」とする。)を行いましたが、商標法3条1項3号に該当するとして拒絶査定を受けました。原告は拒絶査定不服審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない」との審決を受けたので、これを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
知財高裁は、「本願商標の容器部分が女性の身体の形状をモチーフにしており、女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し、そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し、そこから下部にかけて、なだらかに膨らみを有した形状の容器は、他に見当たらない特異性を有することからすると、本願商標の立体的形状は、需要者の目につきやすく、強い印象を与えるものであって、平成6年以降15年以上にわたって販売され、香水専門誌やファッション雑誌等に掲載されて使用をされてきたことに照らすと、本願商標の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っており、香水等の取引者・需要者がこれをみれば、原告の販売に係る香水等であることを識別することができるといって差し支えない。 」として、本願商標は3条1項3号には該当するものの3条2項の要件を満たすものであるとして、特許庁がした審決を取消しました。

天下米事件 知財高裁平成23年4月25日判決

原告は、指定商品を第30類「不透明の気密性袋に密封包装した福井県産の炊飯用精白米」とする商標「天下米」(以下、「本願商標」とする。)について商標登録出願を行いましたが、商標「天下」(以下、「引用商標」とする。)を引用されて商標法4条1項11号で拒絶査定を受けました。原告はこれを不服として拒絶査定不服審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けました。原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
本願商標と引用商標が類似するかについて知財高裁は、「本願商標は、...『天下米』との縦書きの筆書風の文字よりなるところ、『天下』・『米』という構成要素から『この上なくすばらしい米』といった観念が生じるとともに、『テンカマイ』との称呼を生じる。他方、引用商標は、...『天下』の横書きのゴシック体の文字よりなるところ、『天下』とは、『天のおおっている下』・『一国全体。全国』・『一国の政治。万機。また、その権力』・『天子の称』・『実権を握って思うままにふるまうこと』・『世間。世の中』・『世に類がない。この上ない』(広辞苑第6版、甲8)といった各種の観念が生じるものであり、また『テンカ』との称呼が生じるものである。以上によれば、本願商標と引用商標とは、まず、その外観上、いずれも図柄等のない文字のみで構成された商標であって、『天下』の部分で完全に一致しており、文字が縦書きか横書きか、筆書風かゴシック体か等の点で違いはあるものの、その外観の違いがさほど顕著であるともいえない。また、観念については、本願商標からは『この上なくすばらしい米』といった観念、引用商標からは『天下』ないしそれに準ずる観念(『世に類がない、この上ない』という観念を含む。)が生じるものである。称呼上も、両商標は『テンカ』の部分で一致する。そして、商品取引の実情を検討すると、前記のとおり原告は福井県に本店を有し平成3年2月2日に設立された資本金500万円の有限会社であって、創業90年となる来歴の主たる業務は肥料商であり、ウェブサイトによる『天下米』と『土橋商店』の検索結果も1万2800件程度であることからすると、全国的にみた一般需要者が『天下米』なる文字を見、あるいは『テンカマイ』なる称呼を聞いたときに、その販売業者としての『土橋商店』(原告)を直ちに想起するとまではいえないというべきである。以上によれば、本願商標と引用商標とは、外観は、その受ける印象が相当程度異なるものの、『天下』が共通であるから、一定程度の共通性が認められ、観念は、本願商標が『米』に関するものであるとしても、『この上なくすばらしい』『世に類がない』という意味を含む『天下』を共通にしているから、相当程度共通しており、称呼も『テンカマイ』と『テンカ』であって相当程度共通しているといえるから、前述した取引の実情を考慮すると、商標法4条1項11号にいう『類似する商標』であると認めるのが相当である。」として2つの商標は類似すると判断しました。

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