WHITE FLOWER事件 知財高裁平成18年5月25日判決

被告は、「WHITE FLOWER」の欧文字を横書きしてなり、指定商品を第1類「化学品、薬剤、医療補助品」とする商標(以下、「本件商標」とする)の商標権者です。

 原告は、本件商標の指定商品中「薬剤」について商標法50条1項の不使用取消審判を請求しましたが、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受けました。 原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。 知財高裁は、「審決は、『被請求人は、日本の消費者からの注文に対して、個人輸入の範囲に限り応じていたものであり、【白花油/WHITE FLOWER】印の【薬用油】を日本に居住する一般の消費者に販売したものであるから、日本において商標法第2条第3項第2号に該当する行為、すなわち、【商品‥‥‥に標章を付したものを譲渡】する行為をなしたものであることは明らかである。』としている。 しかしながら、前記のとおり、商標法50条2項本文は、商標の不使用による登録取消しの審判請求があった場合、被請求人は、日本国内における登録商標の使用を証明しなければならないことを規定しているところ、商標法2条3項2号にいう『譲渡』が日本国内において行われたというためには、譲渡行為が日本国内で行われる必要があるというべきであって、日本国外に所在する者が日本国外に所在する商品について日本国内に所在する者との間で譲渡契約を締結し、当該商品を日本国外から日本国内に発送したとしても、それは日本国内に所在する者による『輸入』に該当しても、日本国外に所在する者による日本国内における譲渡に該当するものとはいえない。」との判断を示しました。

DIAMETRING事件 東京高裁昭和57年9月30日判決

被告は、「六稜星の中に十字形を描いた図形」の下部に「DIAMETRING」の欧文字(大文字D、M、Rが他の大文字より幾分大きくしてある)と「ダイヤメツトリング」の片仮名文字を二段に横書きにした、図形と文字との結合から成る商標(以下、「本件商標」とする。)の商標権者です。

原告は、本件商標に対して不使用取消審判を請求しました。

しかし、特許庁は「六稜星の中に十字形を描いた図形」のみの使用も本件商標の使用にあたると判断し、請求不成立との審決がでました。 原告はこれを不服として本件訴訟を提起しました。

東京高裁は、「『六稜星の中に十字形を描いた図形』(本件商標から文字部分を除いた図形と同一のものと認められる)が商標として用いられた場合に、その使用は本件商標の使用といえるかどうかという点について考えるに、本件商標は、前認定のように、図形と文字の結合したものであり、その結合は、いずれを主要部分とし、いずれを補助的(附記的)部分とするかとの判断を不能ならしめるほど分ちがたいものであつて、本件商標から図形部分のみを抽出して、それを商標として使用したとしても、その使用は、もはや本件商標の使用であるということはできない。商標法第五〇条が、『商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品についての登録商標の使用をしていないとき』という場合の『登録商標の使用』とは、商標権者が指定商品について登録商標の使用をする権利を専有する(商標法第二五条参照)範囲、すなわちいわゆる専用権を有する範囲内における登録商標の使用をいうものであつて、その範囲を超え、商標権者が禁止権を有するに止まる範囲、すなわち、指定商品又は指定商品に類似する商品についての登録商標に類似する商標の使用(商標法第三七条第一号参照)を含まないものと解すべきである。」として、審決は違法であるとして取消しました。

DCC事件 東京高裁昭和58年6月16日判決

原告は、被告の登録商標「DCC」に対して商標法4条1項10号及び15号違反を理由に無効審判を請求しました。

しかし、特許庁は原告の請求を棄却したので、原告はこれを不服として本件審決取消訴訟を提起しました。
東京高裁は、「コーヒーは、その原材料であるコーヒー豆を我が国で産出することができず、すべて輸入品に依存しており、その香りや味覚は品種により特徴があり、持味である芳香も荒挽きする際焙煎法により異なつてくるものであるが、いわゆる専業的な喫茶店のみならず食堂、レストラン、グリル一般でも営業用に供され、一般家庭でも日常手軽に消費される嗜好品であつて、全国的に流通し、地域的嗜好特性も格別認め難い商品であることが認められる。...かかる全国的に流通する日常使用の一般的商品について、商標法第四条第一項第一〇号が規定する『需要者の間に広く認識されている商標』といえるためには、それが未登録の商標でありながら、その使用事実にかんがみ、後に出願される商標を排除し、また、需要者における誤認混同のおそれがないものとして、保護を受けるものであること及び今日における商品流通の実態及び広告、宣伝媒体の現況などを考慮するとき、本件では、商標登録出願の時において、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたつて、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべきである。...原告の使用によつてDCCが、主として専業的な喫茶店をはじめとする当該継続的取引先の相当数の取扱業者の間で、原告の営業ないし原告取扱いのコーヒー等の商品を表示するものとして認識されていたことこそうかがわれるけれども、その主な販売地域である広島県下でも専業的な喫茶店等に対する取引占有率は高々三〇パーセント程度に過ぎず、成立に争いのない乙第五号証ないし第七号証によつて認められる右以外の一般的な食堂、グリル、レストラン等の存在をも考慮すると、DCCを原告の業務に係る商品を表示するものとして認識していた同種商品取扱業者の比率は更に下まわるものといわねばならず、隣接県である山口県、岡山県等におけるそれらの比率は遥かに広島県に及ばないものであるから、商標法第四条第一項第一〇号に規定するような需要者の間に原告の業務に係る商品を表示する商標として広く認識されていたものとまではいい難い。」として無効事由の存在を否定した審決に誤りはないと判断しました。

塾なのに家庭教師事件 東京地裁平成22年11月25日判決

原告は、指定役務「学習塾における教授」について、第4684359号「塾なのに家庭教師」の商標権を持っています。

被告は、学習塾を経営しており、「塾なのに家庭教師」の標章を付した新聞の折り込み広告の配布や、被告ウェブサイトにて「塾なのに家庭教師、それがTKG」の標章を使用していました。
原告は、被告の行為は商標権侵害にあたるとして、本件訴訟を提起しました。

東京地裁は、「被告チラシ1に接した学習塾の需要者である生徒及びその保護者においては、被告標章1の『塾なのに家庭教師』の語は、チラシ中央部の集団塾の長所及び短所と家庭教師の長所及び短所を対比した説明文や、チラシ右側の『東京個別指導学院の特徴』の説明文などの他の記載部分と相俟って、学習塾であるにもかかわらず、自分で選んだ講師から家庭教師のような個別指導が受けられるなど、集団塾の長所と家庭教師の長所を組み合わせた学習指導の役務を提供していることを端的に記述した宣伝文句であると認識し、他方で、その役務の出所については、チラシ下部に付された『東京個別指導学院名古屋校』、『東京個別個別指導学院』又は『関西個別指導学院』の標章及び『TKG』の標章から想起し、『塾なのに家庭教師』の語から想起するものではないものと認められる。そうすると、被告標章1が被告チラシ1において役務の出所表示機能・出所識別機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから、被告チラシ1における被告標章1の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないというべきである。」として、被告による被告各標章の使用は、商標的使用に当たらないから、商標権の侵害行為又は侵害行為とみなす行為のいずれにも該当しないと判断しました。

GOLDWELL事件 東京高裁昭和56年11月25日判決

原告は、「GOLDWELL」の欧文字と「ゴールドウエル」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、「せつけん類、歯みがき、化粧品、香料類」を指定商品とする登録第1101012号商標の商標権者です。

登録第1101012号は、元々A社が出願して、商標権を取得したものでしたが、A社から原告に対して昭和52年1月17日付で移転登録手続きがなされています。

被告は、原告に対して、商標法50条に規定する不使用取消審判の請求を行いました。その結果、不使用取消審判の請求登録日(昭和53年2月21日)前三年以内に、原告はいずれの指定商品についても商標を使用していないとして、原告の商標は取消されました。

原告は、不使用取消審判の請求登録日(昭和53年2月21日)前三年以内にいずれの指定商品においても商標を使用していない事は認めるが、原告の不使用には商標法50条2項但書で定める正当理由があるとして、本件審決取消訴訟を提起しました。 本件商標は、不使用取消審判の請求登録日(昭和53年2月21日)前三年以内である昭和52年1月17日付で移転登録手続きがなされていますが、このような場合に不使用期間は、前の商標権者との間で合算されるのかという問題があります。

この点について東京高裁は、「商標権を譲り受ける場合には、その商標の従前の使用状況についての事実、例えば、指定商品の一部又は全部について、一定の期間使用されていない事実があるときには、その事実自体は、消滅するはずのものではないから、当該商標権に当然に伴うものとして、譲受人もまた、そのような事実を伴いないしはそのような状況下にある商標権を承継し、したがつて、当該商標権の譲り受けにより、譲渡前の不使用の事実が不問に付され、不使用の期間が譲受人との関係で新たに起算されるというようなものではないと解すべきであることは、商標法第五〇条第一項、第二項の規定の前示趣旨に鑑み明らかである。そして、このことは、商標権者が通常使用権を許諾した場合における通常使用権者との関係においても全く同様である。したがつて、商標権を契約によつて取得しようとする者又は商標権者から通常使用権の許諾を受けようとする者は、その際に当該登録商標の使用の事実ないし状況のいかんを調査すべきであり、例えば、不使用の状態が相当期間継続しているような場合には、その商標権の登録がその不使用の期間に応じて取消される可能性を包蔵したものであることを予想して取引に当るべきである。それ故に、不使用についての正当な理由の有無を判断するに当つてもまた、商標権の移転又は通常使用権の許諾がされた場合には、単にその移転又は許諾後の事情のみならず、それ以前の継続した不使用の事実ないし状況が、商標登録取消審判請求の登録前三年内の不使用事実として、前後通じて判断されるべきものである。」との判断を示しています。

PAPA JOHN'S事件 知財高裁平成17年12月20日判決

被告は商標登録第3199279号商標「PAPA JOHN'S」(以下、「本件商標」とします。)の商標権者です。  原告は、本件商標に対し商標法50条1項に基づき不使用による商標登録取消審判を請求をしました。

特許庁は、審判請求登録前3年以内に日本国内において商標権者等が指定商品等について商標をしていないことを認めましたが、被告はフランチャイズ展開について具体的な準備を進めているので本件商標について真摯なる使用の意思が認められるとして、「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を行いました。  原告はこれを不服として、審決取消訴訟を提起しました。

知財高裁は、「認定した使用は、いずれも米国におけるものであり、日本国内における使用とは認められない。被告は、これらの提供がなされたのは海外であるが、日本における事業展開に関するものであれば国内での使用と同視すべきであると主張するが、採用することができない。...被告は、インターネットのウェブページにおいて、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示してピザに関する広告を行い、フランチャイジーの募集を行っていること、上記ウェブページには日本からもアクセスが可能であること、上記ウェブページは、日本の検索エンジン『MSNサーチ』、『アップル・エキサイト』等において『papajohns』、『papa john's』の語で検索した場合に直ちに検索できることが認められる。しかし、上記ウェブページは、米国サーバーに設けられたものである上、その内容もすべて英語で表示されたものであって、日本の需要者を対象としたものとは認められない。上記ウェブページは日本からもアクセス可能であり、日本の検索エンジンによっても検索可能であるが、このことは、インターネットのウェブページである以上当然のことであり、同事実によっては上記ウェブページによる広告を日本国内による使用に該当するものということはできない。」として審決を取消しました。

CARTIER事件 東京地裁平成17年12月20日判決

原告は、腕時計その他の身飾品等について「CARTIER」の登録商標を持っています。

被告は、原告が製造販売している腕時計のベゼル、グリッド、文字盤等にダイヤモンド等を付して、加工した製品を販売していました。 原告は被告に対し差止請求及びに損害賠償請求等を行いました。

東京地裁は、「被告製品は、原告製品を加工したものであるが、...原告製品の品質にも影響を及ぼす改変を施したものであり、原告商標の出所表示機能及び品質保証機能を害するものといわざるを得ない。被告製品の広告には、『アフターダイヤ』などの表示があるが、真正な原告製品として、ダイヤモンドを付したものが販売されており、被告製品がこれと混同を生じるおそれのある形態であることに照らせば、上記表示があるとしても、原告商標の出所表示機能及び品質保証機能を害することに変わりはない。」として被告の行為は商標権侵害に該当すると判断しました。

Agatha Naomi事件 知財高裁平成21年10月13日判決

被控訴人は、インターネット上の被控訴人のウェブサイトで、ブレスレット、ベルト、リング等のアクセサリーや宝飾品に「Agatha Naomi」の商標を付して販売しています。

控訴人は、指定商品に身飾品等を含む商標「AGATHA」の商標権者です。
控訴人は、被控訴人の行為は商標権侵害にあたるとして、差止請求及び損害賠償請求を行いました。

知財高裁は、「被控訴人各標章からは、『Agatha Naomi』のみならず、『Agatha』という、少なくとも2つの称呼、観念が生じるということができる。そして、後者の『Agatha』は、『A』以外の5文字が小文字であるものの、本件商標『AGATHA』と同一のアルファベットから成るものである。そこで、被控訴人各標章中の『Agatha』と本件商標『AGATHA』とを対比すると、まず、『Agatha』からは、『アガタ』又は『アガサ』の称呼が生じ、本件商標『AGATHA』の称呼である『アガタ』と同一又は類似である。また、『Agatha』からは、アクセサリーの分野で周知性を有する控訴人又は控訴人の製造販売に係るアクセサリー、宝飾品の観念が生じ得るから、本件商標『AGATHA』と観念においても同一である。被控訴人各標章中の『Agatha』の文字は一部が小文字であったり大文字に装飾が施されており、必ずしも本件商標と外観において類似するとはいえないものの、『Agatha』がアクセサリーや宝飾品に使用されるときは、称呼及び観念が同一又は類似であることに照らすと、デパートにおける販売とインターネットを通じた通信販売という販売方法の相違を考慮してもなお、被控訴人各標章中の『Agatha』は、周知の『AGATHA』との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ず、両者は、全体として類似といわざるを得ない。」として被控訴人の行為は商標権侵害にあたると判断しました。

For brother事件 東京地裁平成16年2月23日判決

原告は、インクリボン等について「brother」及び「ブラザー」の登録商標を持っています。被告1はインクリボンを製造し、被告2に販売しています。

被告製品の外箱には、「For brother」又は「ブラザー用」といった表示がなされています。

原告は、被告の行為は商標権の侵害にあたるとして、差止請求及び損害賠償請求を行いました。

東京地裁は、「当裁判所は、被告標章は、商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果たす態様で用いられていないので、商標として使用されていないと判断する。...被告製品の一般需要者は、被告標章を含む『For brother』、『ブラザー用』、『新ブラザー用』の表示について、被告製品が、原告製造のファクシミリに使用できるインクリボンであることを示すための表記であると理解するものと認められる。...被告旧製品においては、被告標章と同じ又は小さく、英語表記であるものの、被告オームの名称が記載され、住所等が記載されているが、その記載態様からすれば、これらの記載は、被告オームの連絡先を表示したものと認識できる。また、被告新製品においては、上記の記載に加え、被告標章とほぼ同じ大きさで又はそれより大きく被告オームの名称が英語表記で記載されている。被告オームに関する以上の表示は、被告製品の製造者又は販売者を示すものと認識し得る表示といえる。...被告製品は、原告の製造に係るファクシミリの特定の機種にのみ使用できるインクリボンであって、被告が、インクリボンを販売するに当たっては、消費者が、他社製のファクシミリに使用する目的で当該インクリボンを誤って購入することがないよう注意を喚起することが不可欠であり、そのような目的に照らすならば、被告標章の表示は、ごく通常の表記態様であると解される。」として被告らによる被告標章の使用は、本件商標権の侵害には当たらないと判断しました。 

UNDER THE SUN事件 東京地裁平成7年2月22日判決

原告は、第2157863号「UNDER THE SUN」の商標権者です。被告は、シンガーソングライターで、業として楽曲を収録したCDに「UNDER THE SUN」の標章(被告標章)を付して、製造・販売していました。

原告は、被告の行為は商標権侵害にあたるとして、損害賠償請求等を行いました。
東京地裁は、「第三者が登録商標と同一又は類似の商標を指定商品又はこれに類似する商品について使用している場合でも、それが、その商品の出所を表示し自他商品を識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されていると認められる場合には、登録商標の本質的機能は何ら妨げられていないのであるから、商標権を侵害するものとは認めることはできない。すなわち、二六条一項二号の『当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標』に該当しない商標についても、出所表示機能、自他商品識別機能を有しない態様で使用されていると認められる商標については、右に述べた理由により、商標権の禁止権の効力を及ぼすのは相当ではない。」として、被告の行為は商標権の侵害に該当しないと判断しました。

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